瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

ビートたけし『たけしくん、ハイ!』(13)

銀河テレビ小説たけしくんハイ!」シナリオとの異同(6)
 昨日の続き。
・第4回(2)英一郎①
 西野家の長男・英一郎は、母・真利子譲りの頭の良さと忍耐力で、貧乏な家庭で育ちながら東京大学に進学している。当時は理科3類の創設前なので理科2類に合格し、2年間の駒場での教養課程を経て、当時は課されていた医学部の入学試験に合格して、晴れて本郷の東大医学部に通うようになった超エリートである。当時の大学生のこととて学帽に詰襟学生服である。背が高く顔が長く美男とは言えないが、秀二郎やたけしにとっては物静かで優しい兄であり、父・竹次郎にとっては自慢の息子でもあり劣等感の原因でもある。本郷に通うようになって1年めだとすれば大学3年生で21歳くらい、昭和8年(1933)生と云うことになる。演じている趙方豪(1956.11.19~1997.12.9)は撮影当時28歳。
 ちなみに撮影当時17歳の松田洋治(1967.10.19生)演ずる次男・秀二郎は高校受験勉強中で第15回で高校に合格している。すなわち15歳、昭和14年(1939)生と云うことになろう。撮影当時13歳の小磯勝弥(1972.5.27生)演ずるたけしの年齢及び学年は、色々問題を孕んでいるので別に記事にする予定。
 さて、英一郎は当初、本郷の子供会の世話をしているうちに知り合った女学生・吉岡和子とセットで登場する。勉学の傍ら、そのような活動にも参加している、人間的にも幅のある人物なのである。
 恐らく、授業で聞いたことはその場で覚え込んでしまい、家や図書館では応用問題ばかり解いていたのであろう。――私などからすると、どうすれば東大医学部まで上り詰めたのか、その過程を知りたい。終戦時に国民学校6年生で、昭和21年度は国民学校高等科1年、そして学制改革で新制中学校が発足して昭和22年度は中学2年生、父・竹次郎が、漆職人だった時代の記憶もあり、そして戦後、酒に溺れるようになった父にどのように対処しながら、駆け上がって行ったのであろうか。
 吉岡和子を演ずる戸川京子(1964.8.13~2002.7.18)は撮影時20歳。短大生もしくは女子大生、都内の裕福な家庭のお嬢さんと云った風情である。
 第1回で、和子を家に連れて行こうとしているが、竹次郎・真利子の夫婦喧嘩に声を聞いて気付いて、それを近所の揉め事と云うことにして止めにしている。
 第3回では、2人連れ立って紙芝居を借りに行こうとするところで、1月8日付(11)にも触れたように、小学校をサボって自転車を探し歩いていたたけしに遭遇している。
 そして第4回、TVドラマでは22日(水)に、英一郎が「あさって」の「クリスマスイブ」に竹次郎は家にいるのか、真利子に確かめている。組合の寄合があるから帰りは遅いはずだと聞かされて、『シナリオ』から引用すると、54頁下段9行め~20行め、

英一郎「おやじが家にいるのなら絶対に連れて来る/ のは止そうと思ったんだけどね、いないのなら/ ――一ぺん母さんとお婆ちゃんに見せておきたい/ 人がいるんだよ。」
真利子「どんな人?」
英一郎「大学のそばの子供会の世話をしているうち/ に知り合った人でさ。いい人なんだ。」
菊  「お嫁さんにしようと思ってる娘さん?」
英一郎「そこまで考えてる訳じゃないけど、一応母/ さん達にも逢って貰いたいし、彼女にも家を見せ/ ておきたいし。ただ、おやじに逢わせたら何もかも/ 駄目になりそうな気がするから?」

と切り出す。そしてこの後、TVドラマで英一郎が登場するのは24日(金)、竹次郎を除く西野家の5人と吉岡和子が「クリスマスパーティ」を開いているところに、案に相違して竹次郎が酔っ払って帰って来る、と云う場面になるが、『シナリオ』には23日(木)の晩の場面がある。たけしが古道具屋に中古グローブを八百円で秀二郎と買いに行って、九百八十円に値上がりしていたため買えずに帰って来た、その日の晩である。――そうすると、古道具屋が値上げしたのは21日(火)と云うことになる。日付も一通り確かめて置くこととしよう。
 それはともかくTVドラマでは省かれた、23日の晩の場面を『シナリオ』から抜いて置こう。58頁上段~下段10行め、

●西野家・茶の間(夜)

  眠っているたけし。
  その枕許に、画用紙一杯に描かれたグローブの/  絵。
  真利子は内職をしている。
  チラッとたけしの寝顔を見て微笑。
  英一郎と秀二郎は勉強している。
  いびきをかいて眠っている竹次郎。
  菊が銭湯から帰って来る。
菊  「ただいま。」
英一郎「お帰り。」
菊  「ああ、帰ってたの、英一郎。」
英一郎「明日、彼女が来るから?」
菊  「はいはい。(声をひそめて)竹次郎にはバレ/ てないね?」
  英一郎、うなずく。
秀二郎「少し片づけといた方がいいぜ 母さんも/ 内職なんかしないで?」
真利子「内職はしないけどね。片づけると言ったって、/ この暮しじゃア。」【58上】
菊  「すまないねえ。もう少し竹次郎がしっかりし/ てれば……。」
  竹次郎、ムニャムニャと寝返りをうつ。
  菊、グローブの絵を見つけて。
菊  「あら……。余っ程口惜しかったんだね。あと/ 百八十円、出してやりたいけどねえ……。」
真利子「いいのよ、おばあちゃん。お正月まで我慢さ/ せるから。少しは我慢って事も教えなくちゃ。」
菊  「だって、年がら年中我慢だもの、たけしは。」
  たけしの寝顔。


 58頁上段18行めの疑問符「?」は感嘆符「」の方が良さそうだ。先に引いた54頁下段20行めも同様だけれども、英一郎が感嘆符「」が付くくらいここを強く言うのは人柄に合っていないような気もする。(以下続稿)