瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

ビートたけし『たけしくん、ハイ!』(15)

銀河テレビ小説たけしくんハイ!」シナリオとの異同(8)
 昨日の続き。
・第6回(1)英一郎②
 この回で「昭和三十年正月」になる。
 さて、『シナリオ』と比較して気付かされるのは、1月10日付(13)に推測した長男・英一郎の状況が、やや詳しく書き込まれていることである。ほぼ同世代の脚本家・布勢博一(1931.10.18~2018.8.13)の思い入れが、苦学生である英一郎の奮闘振りを書き込ませたのであろうが、TVドラマでは残念ながら、たけしと絡まない場面は省略されてしまった*1
 まづ一家で雑煮に形ばかりのおせち料理を食べている場面、75頁下段21行め~76頁上段13行め、

竹次郎「英一郎、お前、今日は大学あんのか?」【75】
真利子「ある訳ないじゃないか。大学だって小学校だっ/ て、みんなお休みだよ、今日は。」
英一郎「でも、出かけるよ、昼前、教授の所にあい/ さつに行って、昼から鈴木さんちに行って来る。」
たけし「鈴木さんって?」
真利子「お兄ちゃんが家庭教師してるとこ。」
  たけし、嬉しそうに芋のきんとんに箸をのばし/  ている。*2
英一郎「鈴木さんちじゃ凄いよ。去年もそうだったけ/ ど、栗だけできんとん作るんだ。」*3
真利子「へえ、じゃ、数の子とかぶりとか海老とか、/ いい物が一杯あるんだ。」*4
たけし「俺、いもきんとんの方が、好きだもん。」


 さらに77頁下段、「」は西野家。

●同・中

  チビリチビリとやっている竹次郎。
  キチンと角帽をかぶる英一郎。
英一郎「じゃ、ちょっと行って来る。」
竹次郎「おい、父ちゃんからもよろしくと言っとい/ てくれ。」
英一郎「ああ。」
  秀二郎はひざの上に参考書をひろげたまま、時/ 折おせちに箸をのばしている。
  真利子と菊が入って来る。
竹次郎「たけしはどうした?」
真利子「もう、おもちゃ屋へ素っ飛んでっちゃった/ わよ。英一郎、出かけるの?」
英一郎「ああ。」
真利子「だったら、これ持ってお行き。お年賀。手拭/ いだけどね。はい、二本。先生んとこと鈴木さんと/ こ。(と、英一郎に渡す。)
英一郎「行ってきます。(英一郎、出て行く。)」
  下駄ばきである。


 年始廻りは、いつ頃なくなったのだろう。私が学部以来の指導教授の自宅に伺ったのは、急に他の大学院に移ることになって、その承諾か推薦だかの書類に判を捺いてもらった、ただ1度きりである。もちろん、正月ではない。――「鈴木さん」は『シナリオ』では第7回に登場する。しかしTVドラマには鈴木家の人々は結局登場しない。
 吉岡和子(戸川京子)とはその後、どうなったのだろうか。その後「たけしくんハイ!」にはもちろん「続たけしくんハイ!」にも、和子は登場しない。子供会の活動は共にしながらも、それ以上発展せずに終わってしまったのか、子供会もどちらかが遠ざかる恰好になったのか、それとも足立区には近寄らずに、英一郎の才能・人柄を信じて愛を育み続けるのか、――家柄が釣り合わない上に、あんな父親がいたのでは、吉岡家では認めそうにない。現実的にはあのまま疎遠になったと解するべきなのであろう、しかしながら私は、非現実的な展開の方を支持したくて、堪らなくなるのである。(以下続稿)

*1:2021年1月14日追記】数日前に視聴した当時の、附箋のメモを点検しつつ記事にしているので見落としが出てしまった。追って記事にしても良いのだが、順序が前後するのも具合が悪いのでここに追加する。「まづ」から「さらに」までが今日の追加。

*2:ルビ「いも・はし/」。

*3:ルビ「すご/」。

*4:ルビ「 え び /」。