・銀河テレビ小説「たけしくんハイ!」シナリオとの異同(8)
昨日の続き。
・第6回(1)英一郎②
この回で「昭和三十年正月」になる。
さて、『シナリオ』と比較して気付かされるのは、1月10日付(13)に推測した長男・英一郎の状況が、やや詳しく書き込まれていることである。ほぼ同世代の脚本家・布勢博一(1931.10.18~2018.8.13)の思い入れが、苦学生である英一郎の奮闘振りを書き込ませたのであろうが、TVドラマでは残念ながら、たけしと絡まない場面は省略されてしまった*1。
まづ一家で雑煮に形ばかりのおせち料理を食べている場面、75頁下段21行め~76頁上段13行め、
竹次郎「英一郎、お前、今日は大学あんのか?」【75】
真利子「ある訳ないじゃないか。大学だって小学校だっ/ て、みんなお休みだよ、今日は。」
英一郎「でも、出かけるよ、昼前、教授の所にあい/ さつに行って、昼から鈴木さんちに行って来る。」
たけし「鈴木さんって?」
真利子「お兄ちゃんが家庭教師してるとこ。」
たけし、嬉しそうに芋のきんとんに箸をのばし/ ている。*2
英一郎「鈴木さんちじゃ凄いよ。去年もそうだったけ/ ど、栗だけできんとん作るんだ。」*3
真利子「へえ、じゃ、数の子とかぶりとか海老とか、/ いい物が一杯あるんだ。」*4
たけし「俺、いもきんとんの方が、好きだもん。」
さらに77頁下段、「同」は西野家。
●同・中
チビリチビリとやっている竹次郎。
キチンと角帽をかぶる英一郎。
英一郎「じゃ、ちょっと行って来る。」
竹次郎「おい、父ちゃんからもよろしくと言っとい/ てくれ。」
英一郎「ああ。」
秀二郎はひざの上に参考書をひろげたまま、時/ 折おせちに箸をのばしている。
真利子と菊が入って来る。
竹次郎「たけしはどうした?」
真利子「もう、おもちゃ屋へ素っ飛んでっちゃった/ わよ。英一郎、出かけるの?」
英一郎「ああ。」
真利子「だったら、これ持ってお行き。お年賀。手拭/ いだけどね。はい、二本。先生んとこと鈴木さんと/ こ。(と、英一郎に渡す。)
英一郎「行ってきます。(英一郎、出て行く。)」
下駄ばきである。
年始廻りは、いつ頃なくなったのだろう。私が学部以来の指導教授の自宅に伺ったのは、急に他の大学院に移ることになって、その承諾か推薦だかの書類に判を捺いてもらった、ただ1度きりである。もちろん、正月ではない。――「鈴木さん」は『シナリオ』では第7回に登場する。しかしTVドラマには鈴木家の人々は結局登場しない。
吉岡和子(戸川京子)とはその後、どうなったのだろうか。その後「たけしくんハイ!」にはもちろん「続たけしくんハイ!」にも、和子は登場しない。子供会の活動は共にしながらも、それ以上発展せずに終わってしまったのか、子供会もどちらかが遠ざかる恰好になったのか、それとも足立区には近寄らずに、英一郎の才能・人柄を信じて愛を育み続けるのか、――家柄が釣り合わない上に、あんな父親がいたのでは、吉岡家では認めそうにない。現実的にはあのまま疎遠になったと解するべきなのであろう、しかしながら私は、非現実的な展開の方を支持したくて、堪らなくなるのである。(以下続稿)