瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

ビートたけし『たけしくん、ハイ!』(16)

銀河テレビ小説たけしくんハイ!」シナリオとの異同(9)
 昨日の続き。――こんなに長く続けるつもりはなかったのだが、2018年7月13日付(05)まで、近所の図書館のリサイクル本コーナーで入手した布勢博一『シナリオ』2冊について述べ、口絵写真を眺めてTVドラマの方も見たいなぁと思っていたところだったので、うっかり深みに嵌まってしまったのである。
・第6回(2)松本正彦
 1月6日付(09)にたけし(小磯勝弥)の敵役として伊藤久(伊藤環)の名を挙げたが、第2回での演技が憎々しく、しかも母の伊藤明代(田岡美也子)が西野家に怒鳴り込むと云う展開になるので、どうも過大(?)評価してしまったらしい。その後を見るに、それほどでもない。代わって擡頭(?)するのが松本正彦(後根宣将)である。ただ松本君は悪い子ではない。第11回に登場する母の松本桃子(西川ひかる)も良い人だ。しかし第13回を見ると、たけしが鉄道模型目当てに卑屈に諂ったりしたものだから、松本君も財力で貧乏人を意のままに出来ることを自覚してしまったらしい。――「続」には登場しないようだから、彼がその後、真っ直ぐ育ったかどうか、確かめようがないのだけれども。
 さて、両親から300円、松本定子(今井和子)から500円のお年玉をもらってオモチャ屋に出掛けたたけしは、そこで父や親戚、年始廻りの会社の人などから6000円お年玉をもらったとて、4800円の機関車の模型を事もなげに買う、78頁下段4行め「級友の松本正彦」に出くわす。見た目は挨拶に次いで7~8行め、

  正彦、半ズボンに蝶ネクタイなどをしている。
  お金持ちの家の子である。

と描写される。TVドラマでは蝶ネクタイと同じ柄のジャケットに金縁眼鏡、髪型は同じだがたけしよりも背は高い。
 帰って来たたけしは真利子(木の実ナナ)に、どうして家には親戚や会社の人が来ないのか、と尋ねる。親戚については79頁上段18~19行め、

真利子「遠いからさ、品川とか千葉とか、みんな散/ らばってるから。」

と答えているが、12月29日の第1回~第3回の放送に続けて再放送された、ファミリーヒストリー北野武~父と母の真実 阿波国徳島に何が!~」に拠れば、原作者には親戚が全くいないらしい。『シナリオ』及びTVドラマでは省略(?)されていた北野家の長女・安子(1936生)に拠れば、北野氏の母・さき(1904~1999)は小学校卒業で高等女学校には進学していない。親戚もいない。北野氏の父・菊次郎(1899~1979)は祖母・うし(1873~1963)の実子が夭折した後で養子にした甥で、しかし兄弟姉妹の誰の子なのかも明示されないのであった。かつ、戦前既に、うしとさきが繁盛させていた帽子屋を潰しており、戦争までは真面目だったが、腕が揮えなくなったため酒浸りになった、と云う訳でもないのである。徳島出身の女義太夫竹本八重子だった北野うしの生家は突き止められたが、親類縁者には全く尋ね当たらない。――写真を見るに、目の大きな北野うしが真利子(木の実ナナ)に似ており、北野さきは菊(千石規子)に似ている。
 それはともかく、これ以上お年玉の上乗せはないと悟ったたけしは、79頁下段9~12行め、

たけし「ああ、誰か六千円くんないかなあ 松本/ なんて六千円だもんなあ ああ、俺んち貧乏で/ 損しちゃったなあ
  たけし、憎まれ口を叩いて出て行く。

と云う訳で、近所の空地で級友たちとベーゴマで遊び、その後、皆で松原組にテレビを見に押し掛けることになるのだが、TVドラマでは、たけしの台詞は「ああ、誰か六千円くんないかなあ」のみで、そんなに憎まれ口ではない。『シナリオ』では、省略された台詞に基づいて菊と真利子が語り合うシーンが続く。79頁下段13行め~80頁上段14行め、

菊  「へえ、六千円だって、子供にそんな大金を/ ……。」
真利子「親戚なんて来られたら、お年玉どころか、/ こっちが借金返さなきゃならないってのにねえ。暮/ だって、三拝九拝して、やっと待って貰ったんだ/ から。」
菊  「(セツない。)済まないねえ。」
真利子「何言ってんの。おばあちゃん、やあねえ。」
菊  「竹次郎がねえ、……もうちょっとしっかり/【79】 してりゃァ……。」
真利子「――。」
菊  「昔のまんんま、うるしの職人でいられたら……。/ 他に何も判らないやつだからねえ、ついて行けな/ かったんだろうね。世の中に。」
真利子「――。」
菊  「すまないねえ、ほんとうに。」
真利子「いいんだってば、おばあちゃん。よそうよ。/ お正月なんだから、パーッと景気のいい事考えて/ さ。落語にあるじゃないのさ。〝貧乏はしても下谷/ の長者町、上野の鐘のうなるのを聞く”」
菊  「ウフフ、そうね。〝貧乏はしても我が家に風/ 情あり、質の流れに借金の山”」
  二人、笑って――。


 2人が掛け合いで持ち出す狂歌は、東京落語「狂歌家主」に見える。

 しかし、このシーンがあったら、西野家はいったい幾ら借金しているんだ、と云うことになってしまうから、TVドラマでここを省略したのは正解だったと思う。(以下続稿)