瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

ビートたけし『たけしくん、ハイ!』(39)

 いづれ続たけしくんハイ!」でのヒロイン交替について述べるつもりであるが、ここで一旦『シナリオ』との異同確認に戻る。
銀河テレビ小説たけしくんハイ!」シナリオとの異同(29)
 2月1日付(35)の続き。
・第9回(4)大介の母①
 結局たけし(小磯勝弥)は、中流家庭の宮森圭子(岡崎由喜枝)やその友人たちとは上手く付き合うことが出来ず、結局、宮森家に向かう途中では断った、ベーゴマの仲間に加わることになる。すなわち、TVドラマでは省略された宮森圭子とその母久美子(岸久美子)の会話に続いて、『シナリオ』118頁下段15行め~119頁上段16行め「●空地」のシーンになる。同じ日ではないようだ。前半、118頁下段16行め~119頁上段8行めを抜いて置こう。

  ベーゴマに夢中になっているたけし。
  と――、健一が頭をあげる。【118】
健 一「大介だ。」
  見ると、大介が赤ん坊を背負い、母親らしい女/  と、五、六歳の女の子が通りかかる。
  極端に貧しい身なりである。
たけし「どこに行くんだ
大 介「親戚んち」
母(松代)「お友達かい?」
  大介、無言でうなずいて去って行く。


 TVドラマでは、大介は風呂敷に包んだ幅のある木製の箱を背負い、母親が赤ん坊を負ぶっている。
 その後、たけしたちの間で、大介一家の貧乏振りが話題になり、大介の家を見に行くことになる。『シナリオ』では119頁上段18~19行め、

  畑の中に、ひしゃげそうな小屋がある。
  やって来るたけし、健一、久、敏夫。  

とあって4人であるが、TVドラマでは3人で久(伊藤環)が参加していない。『シナリオ』にあった久の台詞等は健一(浅野雅博)敏夫(堀越太郎)たけしの3人が代わりに喋っているのだが、どの台詞を誰が喋っていたかまでは、NHKプラスの見逃し配信時には注意していなかった。
 細く、鋸の痕もある柱で屋根を支えているのを見て、『シナリオ』119頁下段6~9行め、

たけし「面白え 地震みてえ。」
  たけしも一緒に柱を押す。
  ゆっさゆっさとゆれる小屋。
敏 夫「関東大震災です。」

などと、面白がってふざけているうちにこの柱を折ってしまい、終いには家をぺしゃんこに潰してしまうのである。――TVドラマでは地震ではなく「面白え、台風みてえ」「キティ台風でーす」となっている。キティ台風は昭和24年(1949)8月31日に関東地方に襲来している。たけしたちが小学5年生だとすると小学校入学の前年である。しかし『シナリオ』に明記されているようにたけしが昭和「二十一年の九月」、『シナリオ続』に拠ると「九月六日」の生まれだとすると、満3歳になるかならない頃の台風と云うことになる。
 それはともかく、TVドラマでは、続いて刑事2人が西野家を訪ねる場面になるが、『シナリオ』にはそれまでに次のような件があった。121頁下段2行め~122頁上段4行め、

●西野家・表

  走って帰って来るたけし。

●同・中

  たけしが入って来る。
  台所で食事の仕度をしていた真利子が声をかけ/  る。
真利子「お帰り。」
  たけし、座ると、教科書を出したりする。
真利子「たけし、お前、何か悪さをして来たんじゃ/ ないだろうね。」
たけし「してないってば、何でそんな事言うんだよ。」
  たけし、しゃにむに鉛筆を握るが、ふと考え込/  む。
  教科書を閉じる。
  スーッと立つと、出て行く。
  真利子と菊、顔を見合わせて溜息をつく。【121】

●道

  たけしが小走りに行く。
  男二人とすれ違う。
  刑事一、二である。


『シナリオ』では122頁上段5~14行め「●街角」に、たけしが茫然と潰れた家の前に立っている大介一家を「そっと家のかげからのぞく」場面が続く。TVドラマではこれは刑事の訪問の後に移されており、かつ、TVドラマでは大介の家が建っていたのは河川敷の草地で、たけしは土堤の上から一家を見下ろしていた。恐らく、撮影の都合で大介の家を河川敷の掘っ立て小屋にしたのだろうが、このことが「続たけしくんハイ!」の設定に活かされることになるのである。
 前回、「たけしくんハイ!」の登場人物が「続たけしくんハイ!」では変更されて、活かされなかった(いなかったことにされてしまった)例を指摘したが、その反対に、当初の布勢博一の脚本にはなかった(或いは曖昧であった)、ドラマ制作に当たっての変更が「続たけしくんハイ!」の設定に活用されている例は、これに限らず幾つかあるようだ。ただ「続たけしくんハイ!」は見る機会がないままなので明確な指摘は出来ないのだけれども、ざっと『シナリオ続』に目を通して気付いた範囲で、今後の記事で注意して置こうと思う。(以下続稿)