瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

ビートたけし『たけしくん、ハイ!』(42)

銀河テレビ小説たけしくんハイ!」シナリオとの異同(32)
 昨日の続き。
・第9回(7)大介の母②
 第9回の最後は、たけし(小磯勝弥)が大介(仙田信也)の家の再建に協力する場面である。
 大介の母(三浦真弓)は、「たけしくんハイ!」ではこの回にしか登場しない。
 まづ、2月5日付(39)に見たように、たけしたちが大介の家を見に行く(そして潰す)切っ掛けになった、大介一家が出掛けているのに遭う場面に出て来る。このとき、顔も写り、大介に対してだが台詞もあるのだが、擦れ違い様でアップにもならないので、それほど印象は残らない。
 次は、様子を見に行ったたけしが、潰れた家の前で茫然と立ち尽くす一家を土堤から見下ろす場面で、後ろ姿である。
 そして、この再建に協力する場面ではっきり写るのだが、すらっと細身で背が高く、虎刈りの大介からは全く想像出来ない、びっくりするくらいの美人なのである。それこそ、石森章太郎の姉・小野寺由恵が上京して来たときに、トキワ荘の面々が受けた衝撃に近いものがある。
 三浦真弓(1950.2.13生)は撮影当時35歳。TVドラマに昭和45年(1970)から平成4年(1992)まで出演しており、その後、引退したようだ。現役当時の記憶が私にはない。妹で、堤大二郎(1960.12.27生)の妻である女優三浦リカ(1958.11.15生)のことも、「水戸黄門」に良く出ていたらしいのだが、記憶していなかった。堤大二郎のことも全盛期の記憶はなく、2018年10月2日付「事故車の怪(17)」に述べたようにドラマ新銀河「これでいいのだ」を見ていて、今や内容は余り覚えていないのだが、近年、やはりNHKの土曜ドラマバカボンのパパよりバカなパパ」玉山鉄二赤塚不二夫を見たときに、堤氏の赤塚フジオを懐かしく思い出したことだった。母が佐久間良子だったことも。
 それはともかく、この場面はほぼ『シナリオ』の通りで、異同と云えばまづ、最初に遠望したとき、125頁上段16~17行め、

  母親は赤ン坊を背負い、妹は石を拾ったりして/  遊んでいる。

と説明されているのだが、TVドラマでは女の子2人が茣蓙の上に座っている。
 それから、手伝い始めたたけしに、125頁下段18行め~126頁上段3行め、

  たけし、みかん箱を運んで来る。
  大介の母も入って来て、
大介の母「悪いわねえ。でも、ありがと。大介、お前、/ いい友達持って良かったわね。」
  大介、ゴザを敷く。
  セッセとみかん箱を運ぶたけし。

と、大介の母が礼を言うところ、TVドラマでは台詞を言う前に顔がしばらく大写しになり、恰も、思春期を迎えようという少年が、初めて女性の美しさを意識する場面のようになっているのである。声も低く、落ち着いている。そして、大介は母の問い掛けに「うん」と元気良く答えるのである。
 たけしは一旦家に戻って、黙ってペンキを持ち出して、大介の家を塗装する。たけしが帰ったときに裏庭で泣きながら洗濯していた真利子(木の実ナナ)が気付いて玄関先まで追い掛ける。TVドラマはそのまま大介の家のシーンになるが『シナリオ』には126頁上段13~17行め「●同・中」の場面(=西野家)があった。126頁上段14~17行め、

  飲んでいる竹次郎。
菊  「竹次郎、酒飲んでどうなるものでもないだ/ ろ
竹次郎「うるせえ


 TVドラマがこれを省いたのも良い判断だったと思う。
 この、家(と云うか掘っ立て小屋)を再建する場面、『シナリオ』では「大介の母」となっているのだが、最初に擦れ違った場面では「母(松代)」となっていた。『シナリオ』212頁「キャスト」にも、既に2月3日付(37)に見たように「山上松代 (大介の母)  三浦真弓」とある。ところが、『シナリオ続』では46頁下段15行め「大介の母――由美子」と、名前が変わっている。ちなみに妹の名前も46頁下段11行め、大介の台詞に「ミチ」とあった(ミチコかも知れない)。
 この名前の変更(?)だが、『シナリオ』にて「松代」としていたことを、TVドラマ「たけしくんハイ!」では名前で呼ばれる場面がなかったことから脚本の布勢博一が忘れてしまって、『シナリオ続』でうっかり容姿に見合った(?)現代風な名前「由美子」としてしまったのであろう。尤も『シナリオ続』でも名前で呼ばれる場面はないから、正直どうでも良いと云えば良いのだけれども、――そして「松代」に三浦氏をキャスティングしたことは、制作サイドの布勢氏に対するサプライズだったのではないか、と思われるのである。キャストが悉く嵌まっている「たけしくんハイ!」にあって、正直「大介の母」だけミスキャストに近い。『シナリオ』の段階では極貧の同級生の、芯の強い母親と云うまでで、それ以上の存在ではなかった。
 何の仕事をしているのかも示されていなかった*1。――『シナリオ』執筆時点では予定されていなかった続篇制作が決定し、同級生の美しい母親と云う想定外の設定を得たことで、『シナリオ続』にて布勢氏は、山上松代改め由美子の見せ場を2箇所、設定することになるのである。(以下続稿)

*1:『シナリオ続』46頁にて廃物回収をしていることが判明する。