・銀河テレビ小説「たけしくんハイ!」シナリオとの異同(37)
昨日の続き。
・第11回(2)松本正彦②
松本正彦(後根宣将)はお金持ちの家の子供で、1月13日付(16)に見たように第6回から、たけし(小磯勝弥)の羨望の対象として登場する。そして第7回の最後、TVドラマでは省略された場面では、1月23日付(26)に見たように、たけしは空想の松本家を自分の家と置き換えて、オモチャ屋で、沢山の鉄道模型を操作する自分の姿を夢想するのであった。その後も第9回、憧れの対象である美少女・宮森圭子(岡崎由喜枝)のお誕生日会に何故か松本君ともども招ばれて、2月1日付(35)に見たように、宜しくやっている松本君と違って、たけしは中流家庭の女の子たちの顰蹙を買ってしまい疎外感を味わわされたりしている。尤も「一億総中流」と云われる前だから、中流家庭の子女と仲良くしなくても幾らでも遊び相手がいたので、それが健一(浅野雅博)孝三(田村淳一郎)敏夫(堀越太郎)正敏(藤原暁彦)久(伊藤環)であり、最底辺の大介(仙田信也)であった。
しかし松本君は「続たけしくんハイ!」に、宮森圭子ともども登場しない。別のクラスだった宮森圭子はともかく、担任の山口先生(石井めぐみ)ごと持ち上がったらしい同級生の松本君がいなくなるのはどうしたことだろう。いや、京子(遠藤千鶴)もいなくなっているが、名前で呼ばれる場面もなかったから問題にならない。『シナリオ続』を見るに、勉強が好きでないたけしの将来を危惧した真利子(木の実ナナ)が、私立中学に入れようと考えることになっているから、松本君は逸早く、小学6年生進級に際して私立中学受験に備えて、私立か、もっとマシな公立小学校に転校したのかも知れない。或いは、宮森圭子もたけしの存在に懸念を抱いた母の久美子(岸久美子)によって、同様のコースを辿ったのであったろうか。
それはともかく、昨日見た、たけしがお年玉が取り上げられた件を蒸し返したとき、真利子に141頁下段13行め「何か欲しい物でもあるの?」と聞かれたたけしは14行め「電気機関車。」と答え、松本君が持っていると訴えるのだが、20~21行め「よそはよそ、うちはうち。何でも人の持って/る物を欲しがるんじゃないの。」と却下されてしまう。
そこでまた電車模型に対する気持ちが高まったのか、『シナリオ』では英一郎を送りに出たついでに、また、143頁上段3行め~下段10行め「●オモチャ屋の中」に入り込むのである。但しTVドラマにはこの場面はなく、いきなり松本君の家に入り込んでいる。だからこの回におもちゃ屋主人(奥村公延)の出演はない。
143頁上段4行めから抜いて置こう。
はたきをかけている店主。
のび上がって店頭をのぞく。
たけしが、電気機関車が陳列してあるガラスケ/ ースにおでこと鼻をくっつけてのぞいている。
店 主「坊や、見るのはいいけど、顔をくっつける/ のはよしな。」
ガラスに、おでこと鼻のあと。そしてたけしの息/ でくもっている。
店主、腰の手ぬぐいでガラスをふく。
たけし「これさあ、二千円に負けるの?」
店 主「(相手にしない。)バカな事を言っちゃいけ/ ないよ。」
と、奥に行きかけて、サッと振り返ると、たけ/ しがまたガラスにおでこをくっつけようとして/ いる。
店 主「こら!」【上】
チラッと見るたけし。
やにわに穴の開いたセーターを脱ぐと、ガラス/ に貼*1りつけるように置き、破れた穴に目を当て/ てのぞく。
店 主「坊やねえ、何もそうまでしてガラスに顔を/ くっつける事はないだろ。」
たけし「だってさ、くっつけないと、ガラスが光っ/ て良く見えないんだもん。」
店 主「(溜息)ま、いいけどさ。(敵*2わないというよ/ うに、首を振る。)」
『シナリオ』ではこの後、143頁下段11行め~144頁下段「●西野家・中」、145頁上段~147頁上段3行め「●松本正彦の家・縁側」の順になっているが、TVドラマでは順番が入れ替わっている。
かつ、TVドラマでは既に松本家に上がり込んでいて、松本君の模型を借りて、大声で唾を飛ばして喚きながら、例の宮森家で顰蹙を買ったのと同じような調子で、乱暴な遊び方をして松本君を慌てさせるのだが、『シナリオ』では松本家に上がり込むまでの経過が描かれていた。145頁上段2行め~下段2行め、
模型の電気機関車が走っている。
操作している正彦。
母の桃子がおやつを持って来る。
桃 子「はい、おやつ。宿題は?」
正 彦「すんだ。」
桃子、何気なく庭を見て目を見張る。
生け垣のすき間から首だけ出してのぞいている/ たけし。
桃 子「何してるの?」
正 彦「(気づいて)あ、西野君。」
たけしの顔、すっと引っ込む。
桃 子「お友達?」
正 彦「そう。」
桃子、また庭を見る。
たけしが生け垣のすき間にそろそろと頭を突っ/ 込んで来る。
桃 子「そんな所からのぞいてないで木戸から入っ/ てらっしゃい。」
正 彦「おいでよ。」【上】
たけしの頭、引っ込んで、木戸から入って来る。
正 彦「これさ、ペンシルバニア鉄道なんだぜ。」
TVドラマではここまでの、前半部分が省略されているが、たけしが松本家を訪ねたのはこれが初めてであると察せられる。電気機関車への思いの高まりが、このような行動を取らしめたのであろう。
それにしても、松本君の母・桃子(西川ひかる)は良い人である。松本君も素直な良い子である。さて、たけしはこの後、「風速五十米」だの「風速六十米! 七十米!」と喚きながら電気機関車に息を吹き掛けているうちに、酸欠になって、『シナリオ』には146頁下段16行め「 たけし、コロンと横になる。」とあるが、TVドラマでは引っ繰り返っている。(以下続稿)