それでは本書の主体を成す短篇連作「昭和の青春」の細目を、仮に【番号】を附し、題、(頁)、掲載号、主人公と主要人物、舞台となっている場所、さらに序でとして取り上げられている昭和の事物をメモして置こう。
【1】モクモク号走る(6~15頁)1997年春号 No.23
平林平吉。私。姫路市呉服町。
姫路大空襲、傷痍軍人、模型、モクモク号、原惣兵衛、ラモート合併。
【2】照国の花屋(16~26頁)1997年夏号 No.24
植村孝三郎。飾磨郡広村→姫路市広畑区。
広田製鉄所、照国、洋画、花屋、グリーンベルト。
【3】十銭版画(27~37頁)1997年秋号 No.25
遠井佐和子。遠井忠雄。姫路市野里筋。
小野忠重『版画の青春』、創作版画、旧制姫高(姫路高等学校)、三等郵便局、姫路大空襲。
【4】マッチ一本 (38~49頁)1998年冬号 No.26
三橋公介。姫路市網干。
摩擦マッチ、安全マッチ、スウェーデン・マッチ、徳用マッチ、軸木の乾燥、電化元年、広告マッチ。
【5】釜の尻(50~61頁)1998年春号 No.27
啓一。揖保郡新宮町(北村の建速神社、屏風岩、姫新線)
台所改善運動、岸上大作、自動式電気釜。
【6】麦つぶのこがし方(62~73頁)1998年夏号 No.28
小山明男。播州龍野。
特需、労働争議、無期限スト、淡口醤油、雑誌「食道楽」。
【7】六軒長屋(74~85頁)1998年秋号 No.29
木村芳恵。相生・恩田住宅。
恩田孝四郎、戦争未亡人、新産業都市、キャバレー、造船疑獄、無期限スト、レジャーブーム、宇野浩二「十軒長屋」、日本住宅公団。
【8】浜子一代(86~97頁)1999年春号 No.31
山内孝一。赤穂。
新幹線、入浜式塩田、流下式、化学製塩。
【9】お頭渡し(98~109頁)1999年夏号 No.32
野元久弥。加東郡社町下鴨川(住吉神社の宮座)。
農地改革、ゴルフ場、東条湖ランド。
【10】三つ池(110~120頁)1999年秋号 No.33
文子。加古川市平荘町中山。
所得倍増、高度成長、プロパンガス、プラスチック。
【11】夢の建物(121~129頁)2000年冬号 No.34
光二・敬子夫妻。揖保郡太子町。
託児所、ユニット工法。
【12】ちいさな山(130~137頁)2000年春号 No.35
私。八丈岩山(姫路市新在家)。
アメリカ兵のジープ、プロパンガス、デパート、煙突、水道、宅地化。
【13】頂上石(138~146頁)2000年夏号 No.36
私。佐藤進一。姫路。家島諸島の西島。
臨海学校、新社屋落成式。
【14】終わりと始まり(147~155頁)2000年秋号 No.37
私。姫路市(新在家)
人間宣言、連続ラジオ放送劇、駐車場、特需景気、デパート、寺山修司。
主人公を始め、登場人物はモデルがいても仮名になっているらしい。地域の産業、文化にささやかな貢献をなした人物を取り上げて、そのささやかな幸福を、或いは戦争で奪われた夢を、そして戦後の希望、時勢に柔軟に対応して行く様を、短い中に昭和の世相や家庭生活の変化を織り交ぜつつ活写して行く。読んで行くうち播磨の風土が立ち上がるようで、知らず知らずのうちに播磨に惹かれてしまう。残念ながら明石市は取り上げられていない。元明石市民としては魚の棚か、淡路島の岩屋との間を繋いでいた播淡聯絡汽船・淡路連絡汽船のポンポン船で、1篇欲しかったところである。
見て判る通り【12】と【14】が出身地の回想で一人称、詳しくは別に検討するつもりだが、これらが『記憶の海辺』の「38度線」の原型なのである。(以下続稿)