瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

芥川龍之介「尾生の信」(1)

岩波文庫31-070-15『蜜柑・尾生の信 他十八篇2017年5月16日 第1刷発行・定価600円・221頁*1

 仮に岩波文庫の書影を挙げたけれども、岩波文庫は著者名を「芥川竜之介」としているので、どうも違和感があって手にしていない。『芥川龍之介全集』の版元なのにどうしたことだろう。
 それで、青空文庫「芥川龍之介 尾生の信」で読んだ。青空文庫の定本はちくま文庫の『芥川龍之介全集3』である。 国立国会図書館デジタルコレクションで探して見たが、「インターネット公開」になっていなかった。
 多くの新旧古典近代文学の電子テクストを公開している心朽窩主人藪野唯至(藪野直史)のサイト「心朽窩旧館/やぶちゃんの電子テクスト集:小説・戯曲・評論・随筆・短歌篇」にも「尾生の信   芥川龍之介」として収録されており、こちらでは初出誌や再録についての情報も示されている。
 それはともかく、私は「尾生の信」を芥川のように美しい話とは記憶していなかった。国立国会図書館デジタルコレクションの「インターネット公開」で閲覧出来る2つの「尾生の信」のうち1つで、見て置こう。
・森脇紫逕『〈故事/俚諺教訓物語』大正元年十月一日印刷・大正元年十月十日發行・定價金五拾五錢・武田交盛館(大阪)富田文陽堂(東京)
 「はしがき」4頁、「目次」10頁、本文255頁。森脇氏についてはよく分からない。大正期に同じ版元から、同じような教訓読物を何冊か刊行している。書名は奥付では角書がなく「教訓物語」となっている。「目次」にて勘定するに278項目の故事・俚諺について解説しており、その7頁上段7行め、167番めに、

▼尾生の信             一六三

とある。163頁を見るに、4行めに2行取りで「▼尾生の信。*2」と題して、164頁1行めまで、

 つまらぬ約束を守つて、馬鹿な目に逢ふことをいふのです。*3
 昔支那に尾生といふ人がありました。人と約束をして、或る橋の下で出逢は/うといふ事をきめました。その時になつて尾生は、早くから橋の下へ行つて待/つてゐましたが、約束した人はなか/\來ません。その中に河の水が増して來/かけました。それでも尾生は約束した事だからと思つて、其處をのかずにゐま/すと、待つてゐる人も來ず、水はだん/\増して來て、とう/\水におぼれて/*4【163】死んでしまひました。


 1行めの纏めからして、身も蓋もない。
 芥川の小説では満潮ということになっているが、それなら其処が満潮時に水没することくらい初めから分かっていただろう。美しくはあるが急な増水ほどの説得力はないように思う。いや、わざとそのようにした小説の設定に突っ込んで見ても始まらないのだけれども。(以下続稿)

*1:【7月5日追記】刊年月日・定価・頁数を追加。

*2:ルビ「び せい・しん」。

*3:ルビ「やくそく・まも・ば か ・め ・あ 」。

*4:ルビ「び せい・やくそく・あ ・はし・した・で あ /び せい・はや・はし・した・い ・ま /やくそく・き ・うち・ま /び せい・やくそく・おも・そ こ /ま ・こ ・ま 」。