さて、7月6日付(3)に見た近事畫報社の『支那奇談集 第二編』の「尾生の信」で上げ汐で溺れ死んだことになっていることが、私にはどうにも腑に落ちない。
原文は、これから色々見るつもりだけれども、いづれも馮夢龍『情史』程度の短いものである。だから上げ汐にしたのは『支那奇談集 第二編』の「解釈」であろう。これを芥川は活用したのである。
しかし、普通はこうは解釈しないであろう。しかし私が見識を示して(?)主張しても、別に上げ汐の解釈で構わないと思っている人には、駄々を捏ねていると思われるのが落ちであろう。そこで、『支那奇談集 第二編』とは別の解釈を述べている先人に御登場願おう。
・林道春『春鑑抄』(1)
林羅山(1583~1657)による一般向けの著作(抄物/仮名抄)の1つで、儒教の五常について口語体で解説したもの。
・日本思想大系28『藤原惺窩 林羅山』1975年9月25日 第1刷 発行©・定価2600円・岩波書店・五二〇頁・A5判上製本
115頁10~13行め、
‥‥。底本/は、東北大学付属図書館狩野文庫*1襲蔵の「寛永己巳(六年、一六二九)仲夏(五月)吉旦梓行」の奥書のある版本/(袖珍本、題箋を失っている)で、巻頭の汚損部分は同じ寛永六年版の東京都立中央図書館加賀文庫*2蔵本に/よって補った。‥‥
とあり、他に慶安元年(1648)版について4行め「‥‥「慶安元年大呂(十二月)吉旦」/の刊記をもつ内閣文庫蔵本には羅山著と記されている。‥‥」と触れている。
最近は、国立国会図書館デジタルコレクション以外にも、古典籍のカラー画像がインターネット公開になっている。
国文学研究資料館の「新日本古典籍総合データベース」にて、「寛永八年〈辛/未〉中秋吉旦梓行」の刊記のある奈良女子大学学術情報センター蔵本を閲覧出来るが、刊記の前に「春鑑抄終 道春書」の奥書が既にある。
早稲田大学図書館雲英文庫*3蔵本は「春鑑抄終 道春書」の奥書に続いて2行の枠に「正保乙酉仲夏中旬/ 杦田勘兵衛尉刊行」の刊記がある。正保二年(1645)版である。
どちらも横長の袖珍本で寛永六年(1629)版と同版、或いは覆刻であろう。内容は、一丁表「〇五常」、本文は半丁12行。三丁表5行め「〇仁*4」、二十丁表6行め「〇義*5」、二十七丁裏2行め「〇禮*6」、四十六丁裏7行め「〇智」、五十二丁裏5行め「〇信*7」、本文は「五十八終」丁表7行めまで、1行分空けて奥書、さらに1行分空けて刊記。
尾生の話は、もちろん「〇信」に見えている。(以下続稿)