瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

白馬岳の雪女(34)

 昨日の続き。
・遠田勝『〈転生〉する物語』(14)「一」9節め①
 8節め「「雪女」と偽アイヌ伝説」は続いて、これら、ハーン「雪女」翻案と一見判りにくい(だからこれまで指摘されて来なかった)『アイヌの傳説と其情話』の2例と、人名も行文も引き写している『山の傳説 日本アルプス』とを比較しつつ、青木純二がこのようなことをした心意を推測するのだけれども、これについては本書の検討が一通り済んだ後で触れることとしたい。
 そこで今回は38頁10行め~40頁6行め、9節め「地名の魔力」に進もう。38頁11行め~39頁5行め、

 これはハーンとは直接かかわらないことだが、青木は『山の伝説』と『アイヌの伝説と其情話』/のあいだで、もうひとつ、奇妙ないたずらをしている。「桜の精(上高地)」は、たぶん、『アイヌ/の伝説と其情話』の「林檎の花の精」の使い回しだろう。話の内容は、山に狩りする若者が、山中/で美しい女に出会い結ばれ、再会の約束をするが、若者は、恐ろしくなって、その約束を破ってし/まう。翌朝、若者は満開の花の下で死んでいた。若者は花の精にとりつかれたのだろう、というも/ので、北海道の林檎の花を、上高地の桜に変えたばかりの同工異曲、ヤマもオチもない、なんとも/【38】つまらない話だ。しかし、こんなものが、花にまつわる古い伝説として、後世の書物に拾われてし/まうのである。近藤米吉『続・植物と神話』(雪華社、一九七四年)が掲げる、信濃の伝説「桜の精/に見込まれた男」(五五~五六頁)アイヌの伝説「リンゴの花の精に見染められた男」(三〇六~三〇七頁)がそれで、「桜の精」のほうは、さらに秦寛博『花の神話(Truth In Fantasy)』(新紀元社二〇〇四年、五八頁)に拾われている。‥‥


 近藤氏や秦氏の本は未見。遠田氏がこれらの本を見たのは、「林檎の花の精」もしくは「桜の精」の、或いはその両方の典拠を探るためだったのではないか。しかし典拠ではなく影響の方を拾ってしまったのだろう。――似たような話を読んだような気もするのだが、8月27日付(31)に触れた、違星北斗の遺稿(?)との先後関係を問題にしていた Twitter の諸氏も、やはり典拠を突き止めていないようだ。
 今のところまるで実現する見込みのない、典拠と影響を網羅した『山の傳説 日本アルプス』校注本刊行*1を目指している私(!)としては、遠からずこれらの本について確認の機会を作ろうと思う。目下パラリンピック強行中で、そのうち2学期も始まるようだから、いつ安心して出掛けられるようになるのだか分からないのだけれども。

 さて、ここまでの前半部分は、余りこの節の主旨に関係ないように思われるのだけれども、ここから遠田氏は、39頁7行め「物語と地名の不思議な関係」へと話題を急転換させるのである。(以下続稿)

*1:2019年9月14日付「「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(117)」に初めて提案し、以後2019年の年末までに2度ばかり持ち出して見たのだが、今のところ全く反応はない(笑)。けれども、当記事に見るように実現へ向けて奮闘中(!)である。