瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

白馬岳の雪女(55)

・丸山隆司「【研究ノート】民話・伝説のポストコロニアリスム」(4)
 一昨日の続き。
 丸山氏は最後に、青木純二の「異文化理解、他者理解の貧困さ」の実例として「悲しき蘆笛」の粗筋を紹介、特に末尾は原文をそのまま抜いている。『アイヌの傳説と其情話』113頁12~14行め、

 それからは、湖の奥に生ずる玉藻の中には、きつと、二つ一緒になつたのが只一個あるといふ、そ
して阿寒おろしに誘はれて湖に方がら女の泣聲に混つて、悲しげな蘆笛の音がきこえて來るさうだ
                            (山の傳説と情話より)


 丸山氏の引用はこれを「 」で括って、最後の(出典)の前に「/」を入れてここで改行されていることを示す。読点は全て全角で「湖に方がら」の「が」の右傍「ママ」とあるが「に」にも附すべきだろう。そして、39頁下段8~9行め、

 この話は、阿寒湖のマリモ伝説として、流布されている。しかし、/すでに、この話が、青木の創作であることが指摘されている☆5。‥/‥

として、40頁上段5~12行めの注5は、

5 ネット上のいくつかのサイトでこの点が指摘されている。‥‥

との書き出しで、研究ノートにもせよ、論文の注の書き方ではない。9月18日付(51)にも述べたように、2月の調査結果を3月刊行の雑誌に載せるため、十分な調査が出来なかったようである。
 それはともかく、私はこれまで、阿部敏夫「和人のアイヌ文化理解について――事例その1 青木純二『アイヌ伝説』」(「環オホーツク――環オホーツク海文化のつどい報告書」No.1(1994年)63~73頁)の内容を、2019年10月20日付「「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(135)」にて推測したように、財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構『平成十四年度 普及啓発講演会報告集』78~88頁「「大正期におけるアイヌ民話集」・「北海道の義経伝説とアイヌ」」によって窺うことが出来ると思っていた。
 その『平成十四年度 普及啓発講演会報告集』の「Ⅰ.「大正期におけるアイヌ民話集」について」では、丸山氏の文章と同じく、最後に駄目押しの形で持ち出されているのである。すなわち、2019年10月19日付「「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(134)」にも触れた紅スズランの話に続いて、81頁右47行め~82頁左1行め、

 同じような問題は阿寒のマリモ伝説にもあると思いま/す。いろいろ調べてみたら、この青木純二の大正十三年本/がネタ本ですね。ちょっと読んでみますか。マリモ伝説。/遊覧船に乗って聞かされます。そしてアイヌの、阿寒湖の/アイヌ伝説なんて伝えられています。小樽新聞社の懸賞募/集北海道の民話として粉飾されてきています。この本のと/【81】ころをちょっと読んでみたいと思います。‥‥

云々と前置きして、82頁左3行めから83頁左45行めまで、全文を朗読している。最後は83頁左41~45行め、

‥‥。それからは湖の奥に生ずる玉藻の中/にはきっとふたつ一緒になったのがただ一個あるという、/そして阿寒おろしに誘われて湖に方々から女の泣声に混/じって悲しげな葦笛の音が聞こえてくるそうだ。」(山の伝/説と情話より)


 朗読のため誤植を直して読んでいるが、ここは「湖ら」とすべきだろう。それはともかく、1行分空けて、以下のようにコメントしている。83頁左46行め~右5行め、

 玉藻とは、まりものことですね。少し長くなりましたが、/この民話をどう思いますか。今から七十年前に創作された/民話です。この民話をもとにしていろいろな民話が再話さ/れました。また、現在「阿寒のマリモ・・・・・」と歌わ/れるようになりました。こういう文化を伝えて良いでしょ/うか。しかし伝わっているわけです。この現実知ったもの/【83左】が今後どのようにするかということは自ずからわかると思/います。もっともっとすばらしいアイヌ民話の世界がある/はずなのに、このような伝説が流布されて良いのだろうか。/苦々しい思いがするし、読んでいても、悲恋物語で良いの/だろうかという思いがあります。‥‥


 もう少々続くが、阿部氏は講演と云うこともあって、問い掛ける形で締め括っている。(以下続稿)