瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

白馬岳の雪女(089)

 さて、石崎氏は日本の民話55『越中の民話』第二集の丁度2年後に、4月26日付「石崎直義 編著『越中の伝説』(1)」に見た越中の伝説』を著しており、4月29日付「石崎直義 編著『越中の伝説』(4)」に見たように、3章め「怪異伝説」の1節め「妖怪変化」の7話めが「 雪  女 (下新川郡黒部渓谷)」である。119頁下段1行め~120頁下段11行め、

 むかし、ある/年の秋、猟師茂作が息子の箕吉*1を連/れて、黒部渓谷の奥山へ猟に出かけた。途中、大/嵐となり思いがけぬ大吹雪にあった。仕方なく山/小屋に入って避難し、一夜を明かすことにした。/夜が更けたので薦*2をかぶって二人は寝た。夜中に/息子が、何だか寒けがして目が覚めた。何か動く/ものの気配がしたので、入り口のすき間から入る/雪明かりですかしてみると、髪も身体もまっ白/く、白衣をつけた若い女が、父の茂作の枕元に座/って白い息をふきかけていた。びっくりして思わ/ず声を立てたところ、女は箕吉の方を見てにやり/と笑い、「あなたには何にもしないから心配しな/くてもよい。だが、今夜の私のことはだれにも話/してはいけない。もし約束を破ったら、あなたの/生命をもらうから」と言って、そのまま、すうっ/【119】と霧のように小屋の外へ消えていった。夜が明け/てみると、父の息は絶えていた。箕吉は涙ながら/遺骸を背負って家に帰り、葬いをしたのであっ/た。
 それからしばらく経ったある冬の夕暮れ、箕吉/の家の門先に、一人の若い女が雪道に迷ったから/泊めてほしいと頼んで来た。心やさしい母親は気/の毒がって家の中に入れて、親切にもてなしてや/った。次の日も次の日も吹雪であったのでそのま/ま、女は母親の手伝いをしたり、食事の用意をし/たりして居ついてしまった。やがて息子の嫁にな/ってもらった。こうして何年か経つうちに、男の/子が生まれ、一家に幸せな日々が続いた。
 ある年の冬の夜、箕吉夫婦が夜業*3をしながら四/方山*4ばなしをしていた。ふと箕吉が妻の横顔を見/ていると、数年前の秋の夜に黒部奥山の小屋で逢/【120上】った女にあまりにもよく似ているので、思わず知/らず、「お前の顔を見ていると、昔、黒部山奥の/小屋で会った女の人に似ていると思う」と言っ/た。すると、妻は急に淋しい顔になり、「あの時/のことは、だれにも話さないと約束したのに、今/あなたは破ったわ。生命をもらおうと思うが、男/の子がかわいいから、生きていてほしい。子ども/のことを頼みます。私はもとの雪女になって雪空/へ帰ります」と言ったかと思うと、一筋の雪煙り/になって窓の戸を明けて、雪の夜空に消えていっ/たといわれる。


 この話では『越中の民話』第二集の大井四郎の話や『日本昔話通観●第11巻/富山・石川・福井』に載る伊藤曙覧の稿本(伊藤稿)と違って、父親は雪女に白い息を吹き掛けられて死んでいる。やはり富山県でも元々この形で行われていて、その後、『越中の民話』や『日本昔話通観』のような、山小屋での父親の死を脱落させたものが広まったのではあるまいか。
 『越中の伝説』の翌年に刊行された、8月9日付(013)に見た日本の伝説24『富山の伝説』の、大島広志・石崎直義「富山伝説散歩」の2章め「黒部」4節め「黒部峡谷の怪異譚」の最後(44頁上段6行め~下段12行め)には「黒部で有名な話には雪女がある」として、ほぼ同じ内容の「雪女」を、さらに要約して紹介している。但しここは石崎氏ではなく大島氏の執筆らしく、雪女との遭遇を語った夫に対し「妻はにわかに顔色を変えて立ち上がった」とあることからして、似てはいるけれども『越中の伝説』に拠った訳ではないらしい。
 こうした、かなりの Variation を持った書承・口承が富山県では現在も継続しており、近いところでは「FMとやま」で、富山県滑川市出身の女優室井滋(1958.10.22生)が朗読&トークを担当して2014年4月4日から毎週金曜日12:30~12:55に放送されている「室井滋のしげちゃん☆おはなしラジオ」でも取り上げられている。すなわち、「「室井滋のしげちゃん✩おはなしラジオ」過去の放送内容(2019年度)」に2020年「1月17日「雪女」(未來社『越中の民話第二集』より)」と見えている。どのようなトークをしたものだか気になるところである。
 やや遡ると、8月18日付(022)に見た黒部市吉田科学館の「黒部奥山の昔ばなし」、それから「日本海文化研究所報」37号(2006.2.10)8~13頁「富山市日本海文化研究所11-20年間の活動記録」に、11頁左32行め~右20行め「5.いろりを囲むおはなし-日本海文化を聞く-」の左33行め~右4行め「◎平成15年度(年間5回)」の、左46行め~右2行めに、

 ⑸1月10日 雪をめぐるお話【左】
  「かさじぞう」「山小屋で出会った雪女」
               富山市陶芸館館長 廣田 憲一

とある、平成16年(2004)1月10日(土)の「おはなし」も、やはり白馬岳の雪女であろう。右5~20行め「◎平成16年度(年間5回)」の、19~20行め、

 ⑸1月8日 雪をめぐるお話「雪娘」
  「牛方とやまんば」「座頭の木」       八尾お話の会

とある、平成17年(2005)1月8日(土)の「雪娘」は、違うかも知れないが。(以下続稿)

*1:ルビ「みのきち」。

*2:ルビ「こも」。

*3:ルビ「よ なべ」。

*4:ルビ「よ /も やま」。