瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

たなんばー(1)

・鈴木樹造『八王子方言考』昭和58年1月4日 発行・定価 700円・94+37頁
 3月16日付「血取り(1)」に取り上げた、同じ著者のかたくら書店新書15『ふる里民俗誌』に先行する著書で、その後「かたくら書店新書7」として再刊されているはずである。奥付は横組みで、最上部左に「鈴 木 樹 造(すゞききぞう)」とあって以下しばらく、右にある書架を背にした顔写真(3.2×3.0cm)の分だけ余白。この写真が『ふる里民俗誌』に転載されて不鮮明になっていたのだが、本書では毛沢東風らしい髪型なども分かるくらいにはなっている。次いで左選りに大きく「(筆者)」とあり、下に小さく「大正10 八王子市上恩方町案下に生まれる。」として、以下3行「著 書」を3点4冊、かたくら書店からの刊行はまだない。次いで「地 名 研 究 協 議 会 理 事」そして最後に1行「現住所」として郵便番号なしで『ふる里民俗誌』を示し、続いて電話番号も添えている。
 本書も橙色の牛皮風の模様の入った文集風の表紙で、文字はゴシック体横組み中央揃えで上部に小さく「鈴 木 樹 造 著」2行分ほど空けてやや大きく「八 王 子 方 言 考」とある装幀は、他の鈴木氏のかたくら書店新書の本と揃えているようである。中央やや下に、山里の川に架かる木橋の絵(10.4×10.4cm)が大きく入る。対岸は石垣になっていてその辺りで子供たちが遊んでいる。民家1軒、こちら側には冬枯れの柿(?)の木がある。下部に「かたくら書店」とある。他に表紙の文字は背表紙にゴシック体縦組みで上部に標題、中央下に「鈴木 樹造 著」、最下部にやや小さく版元名が入っているのみ。
 見返しは表紙に貼付されておらず、本文共紙の遊紙があるが表紙側の遊紙には、裏の左下に明朝体縦組みで「表紙・さしゑ‥‥‥ 渡 辺 嘉 平」とあるから厳密には遊紙ではない。次いで表紙と同じ著者名と標題が、やや下、やや拡大されて入っているのみの扉。裏は白紙。次いで「も く じ」4頁(頁付なし)。
 1~2頁「ま え が き」は2頁13行め「昭和五十七年十二月二十五日」付。2頁5~10行め、

 昭和三十四年に、これら消えゆく方言を惜しんで「恩方村方言集」なる小冊子をまとめた/ことがある、恩方村はその後八王子市に合併した。恩方方言は八王子方言の一部分でしかない/はずだが、むしろ基調をなしているといってよさそうである。
 いまこれを読みなおしてみると、その語彙の殆どが、いまの小・中学生の語彙にはなくなっ/てしまっている。そこで、これら語彙の中から幾つかをとり出して、その意味や語源を探ろう/と試みたのが本書である。‥‥

とある。「方言考」と題する所以である。
 本書は3~10頁「1 古語と方言」11~20頁2行め「2 江戸ことばと方言」20頁3行め~26頁「3 倒錯と混用」27~47頁「4 こどもの生活と方言」48~64頁1行め「5 植物の方言」64頁2行め~94頁「6 山村生活と方言」の6章と、横組み(左開き)で別に頁付を打った「語   彙」から成っている。94頁の次、「語彙」の37頁の裏は白紙。
 6章めの最後、10節めすなわち本文の最後に、妖怪について述べたところがある。この記述はこれまで全く注目されていないらしいので、全文を抜いて置きたい。93頁10行め、2行取り4字下げでややゴシック体で大きく「た な ん 婆」と題して、11行め~94頁、

 たなんばあは一種の妖怪である。子どもをおどすとき、「たなんばあが来るぞ」と言う。た/なんばあは、八王子市の山間部と神奈川県津久井郡にしか棲息しなかったのか、方言辞典や民/俗語彙集を見ても全国分布は不明である。【93】
 たなんばあは棚ん婆または棚婆であり、たなとは農家の屋根裏三階で、三階は特に大棚とい/う。中間に二階はあるわけだが、これは一階の天井裏程度の空間しかなく、利用されることは/殆んどない。
 三階は養蚕時には上蔟の場となるが普段は全く使用されることはない。両側の破風を開けば/明かりは入るが、めったに開けることはないから真っ暗で、下の囲炉裏の煙が立ちこめて、天井/ならぬ屋根裏にはすすが垂れ下がっている。このような所に棲むという妖怪がたなんばあである。
 遠い昔、恐らくまだ養蚕も行なわれなかった昔、ここは一種の「姥捨て」の場ではなかった/か。年老いて体が利かなくなった老婆、いわゆる寝たきり老人をこの屋根裏三階に放置したの/ではないか。大棚は暗い殆んど陽の目を見ることもなく病み呆けた老婆の姿は、正に妖怪その/ものであったろう。食事や用便の世話はなされたのであろうか。
 貧しい農民の悲惨な一面をのぞかせる方言である。


 後半は飽くまでも鈴木氏の解釈であることには留意すべきであろう。
 「語   彙」20頁1~17行め、〔〕に14語挙げる内、11~12行め、8番め9番め、

た     な (屋 根 裏 三 階) 津久井
た な ん ば ー (屋根裏に棲むという妖怪)

とある。「たな」の「津久井」と云うのは1頁2行めによれば「(全国分布状況)」で、37頁の最後、12行めに「 語彙の分布状況は全国方言辞典(東条操編)による。」とある。(以下続稿)