瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

声はすれども姿は見えぬ君は深野の蟋蟀(2)

 以下の記事は9月27日付で投稿したのであったが、昨日述べたような事情で今日再投稿することにした。本文には全く手を入れていない。
 その後、29日に家人が風呂場で、30日の夕方には私も風呂場で見掛けたが10余日滞留していたのとは別の、鳴かないからどうやら雌らしいのが、入り込んでいたらしい。鳴かないからそれからどうしたのか、まだ風呂場にいるのか他所に移ったのかそれとも外に逃げたのか、分からない。家を出た雄は玄関近くで鳴いていたのがその後、庭に移動したらしい。声が遠くなったので同じコオロギなのか別のコオロギなのか、もう分からない。

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・出瑣末亭記
 9月21日付(1)の続き。
 10日余り台所の次の間で鳴いていたコオロギだが、先週木曜もやはり次の間で鳴き始めたのだが、夕食を済ませて風呂の支度などをしていたとき、声がしなかった。玄関の戸が開いていない限り外には出られないはずだから、ついに死んでしまったのかと思っていたのだが、私が風呂に入ろうとして1階に下りたとき、声がするのである。しか次の間ではなく台所、それも次の間に近い冷蔵庫の前ではなく、ガスコンロの前の、玄関に近い辺りで鳴いていることに気付いたのである。いや、うちは玄関が台所なので、三和土の辺りと云った方が良いかも知れない。
 金曜日も晩もやはりそちらで、醤油や料理酒や酢の瓶を並べてある辺りや、シューズラックやら何やらの陰で鳴いている。しかしどうも三和土にいることが多いらしいので、次の間にあった胡瓜の端や古い無塩煮干しを入れた小皿を三和土に移して、もちろんそのまま外に出てくれれば有難いが、しかし玄関の戸を開けっぱなしにするとすぐに表通りなので通行人から室内が丸見えになってしまう。もちろんまだ籔蚊もいるから開け放して置く訳にもいかない。次の間にいることに気付いたときに家人が、逃がせないか、と言ったときの返答と同じで、こちらが親切のつもりでも向うに意図は伝わらない。お前を逃がそうとて玄関を開け放しているのだから有難く思って出て行きなさい、と云う訳には行かぬのである。だからとにかく、食糧と水分だけ切らさないようにして置いたのである。
 それはともかく、風呂に入る前に、玄関脇の植え込みに、ヨーグルトの容器に張って置いた水を捨てたのである。――よく、きちんと洗わずに捨てている人がいるが、ヨーグルトはすぐに洗うと上手く取れないけれどもしばらく水に浸けて置くと固まって、容器から綺麗に剥がれる。但し流すだけで自然に剥がれる訳ではないので、少しは力を入れてこすってやらないといけないが、指に付くようなことはない。
 台所の流しに流してしまうとネットが目詰まりしてしまいそうなので、外の植木の肥やしにしているのだが、明るいうちだと籔蚊が入って来るので、大抵夜遅くなって、通りに人がいないのを見計らってやっているのだが、そのとき、外玄関の照明を付けると明るすぎるので、玄関の戸を少し開けてその明りを頼りにして洗うのである。時間にして30秒にもならないので、籔蚊もほぼ入って来ない。
 さて、話を金曜の晩に戻そう。例によってヨーグルトの容器を綺麗に洗って、それから軽く手を洗って、風呂に入って、出て来ると、どうも、――台所=玄関に鳴き声がしない。いや、風呂の戸を出たところに洗面台があって、そこは台所と一間なのである。水屋(食器棚)と下駄箱で玄関とは仕切って、脱衣場のようにしている。だから同じ部屋にいるはずなのだが、聞こえない。しかし昨日もしばらく聞こえなかったこともあるから大して気にせずに、身体を乾かして、身体の火照りを冷ましながら食器を洗って、と、どうも、外でコオロギが鳴いているのである。おや、と思ったが眠かったこともあって然して気にせずに、歯を磨いて2階に上がって寝たのだが、土曜、夜になっても玄関からも次の間からも声がしない。そして、水曜まで盛んに鳴いていたのと同じような元気なコオロギの声が、玄関を出て右、隣のアパートとの間辺りから聞こえるのである。どうも、同じ声らしい。台風以来、外ではコオロギの声がしなくなっているから、うちにいたのが外に出て、鳴いているらしい。日中に出入りしたとき、一緒に出たのかも知れないし、上記の推測通り、夜中にヨーグルトの容器を洗った隙を捉えて出たのかも知れない。
 しかし、聞けば聞くほど聞き慣れた声である。胡瓜の切れ端と煮干しはその辺りに放って置いた。以来、一昨日の日曜も盛んに鳴き、昨日はやや庭に寄った辺りで、そして今日は土曜と同じ辺りから、今も盛んに鳴いているのである。20回近く続けざまに鳴いて、少し休んでまた続けざまに鳴く。屋内と違って移動の自由があるから、ずっと同じ場所で鳴いている訳ではない。
 もしうちの中で死んでしまったら、亡骸を捜し出して、梅の木の根元にでも埋めてやろうと思ったのだが、その必要はなさそうだ。

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 声がしなくなったら、そのときその旨、ここに追記することとしよう。