瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

道了堂(111)

 ところで、都内の民俗調査報告書などにも「オガミヤ」のことは出ているから、そのような存在が村社会にいたことは知識としては知っている。イタコとか、テレビの心霊番組に出ていた霊能者も、そして道了堂の堂守もそう云った存在だったのだろう。そう云えば大学のサークルに、祖父が山伏だったと云う野郎がいて、彼の家を1度だけ訪ねたことがあるのだが、不動堂みたいな家で、いや、不動堂が母屋で、須弥壇不動明王座像が安置されていて、もちろんそんなに古い物ではなく、美術的な価値もなさそうな物だったが、内陣がしつらえてあって護摩壇があった。しかし宗教法人として登記していないし、参拝者も受け付けていない。地図にも載っていない。友人の父は一般企業勤めでオガミヤのようなことは全くしていない。片付ける訳に行かぬのでそのままにしていたらしい。しかしその友人が出家したので或いは少し形を変えて復活するかも知れない。
 霊験があったと云う話も1つだけ聞いている。当ブログでも2013年3月20日付「鶴見事故(1)」に触れた、昭和20年(1945)8月24日の八高線多摩川橋梁での列車正面衝突事故からしばらくして、祖父の信者の1人がお礼を言いに来た。この事故では上り・下りとも、客車の1輛めの上に2輛めが乗り上げて、圧死したり粉砕された車体とともに増水していた多摩川に転落したりして、105人以上が死亡したのである*1が、この人は最初、1輛めに乗っていたのだが、胸騒ぎか何かがして、途中で後ろの車輌*2に移った、と云うのである。
 しかし、私の周囲には、兄が「ムー」を定期購読していたけれども私には何も言って来なかったし、父も明治生れの祖父も合理主義者で、母方にもやはりオガミヤみたいな人に頼るような人がいなかったので、どうもこう云う者に頼もうと云う心理を量りかねるのである。
・郷内心瞳『拝み屋念珠怪談』(2)
 それでは、もう少し詳しく、この怪談ノートについて見て置こう。
 郷内氏が相談者の裕木真希乃と再会し、怪談ノートを託され、そして読み耽ることになるまでは『緋色の女』6~23頁「天 稟*3」に叙している。11頁16~18行め、

‥‥、裕木は持参した紙袋の中から大学ノートを/何冊も取りだし、テーブルの上に重ねた。ノートは全部で十二冊もあり、全ての表紙に/「取材レポート」というタイトルとナンバーが書き記されている。

とあるのが郷内氏が初めて怪談ノートを眼にする場面で、内容については16頁10~17行め、

‥‥、ノートを一冊開いてみると、六ミリ間隔のB罫線で横向きに区切られた/紙面には取材日時の表記を筆頭に、取材相手の名前や住所が正確に書き記されている。*4
 それに続いて取材相手から聞き取った話の内容が、黒い水性ボールペンの細かい字で/びっしりと書き綴られているのだが、本文を読むだけでは理解しづらいくだりや、取材/相手が仕事で使う専門用語、方言などを用いた場合には、紙面の下部などに脚注を設け、/そちらでくわしい解説をおこなうなどもしている。*5
 そうした構成で作られた十二冊の取材ノートは、一目しただけで完璧な仕上がりだと/理解できたし、‥‥*6

と説明されている。しかしながら、本シリーズはこれをそのまま再録したものではない。23頁6~16行め、入手の経緯の紹介を終えて1行分空けて、

 次頁より、本書の本編として始まる裕木真希乃の取材記録は、著者である私が彼女の/手記に基づき、怪談実話として再筆したものである。
 プライバシーの問題を考慮して、取材相手を始めとする、登場人物の名前は原則的に/仮名表記とした。
 話中に登場する地名や公共施設の名称については、開示しても支障のない範囲までの/表記に止めている。*7
 その他、公序良俗に反する話題や、あからさまな差別を意図する表現などが話の中に/登場する箇所については、私の判断で適宜修正、ないしは削除をおこなっている。
 ただし、話の大筋そのものについては大きな手を加えたものは一切ない。
 これは都内を中心に、およそ三年半をかけて蒐集された、臨場感と生々しさに溢れる/〝生きた怪異〟の記録である。*8


 すなわち、裕木真希乃(もちろん仮名だろう)から提供された怪談ノートを、郷内氏が怪談実話の作家としてリライトした、〝生きた怪異〟の記録だと云うのである。
 しかし、どうも怪しいように思われるところがあるのである。私の思い過ごしかも知れないけれども。(以下続稿)

*1:事故の状況は30年近く前に読んだ舟越健之輔 『「大列車衝突」の夏』の記憶に拠る。

*2:上りか下りかは、友人の話から備わっていなかったと思う。

*3:ルビ「てん ぴん」。

*4:ルビ「けいせん/」。

*5:ルビ「/つづ//」。

*6:ルビ「かんぺき/」。

*7:ルビ「/とど」。

*8:ルビ「あふ/」。