瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(189)

 これも今日投稿しないと2022年は投稿なしになってしまうので急遽準備して投稿することにした。
 2021年12月19日付(188)に続いて、叢書東北の声44『杉村顕道作品集 伊達政宗の手紙』に収録される小説の設定を検討したものを(189)と(190)として準備していたのだが、本の返却とともに中断し、「蓮華温泉の怪話」から派生した「白馬岳の雪女」や八尾の「風の盆」、また「道了堂」の検討を本格的に始めたこともあって、そのままになっていた。と同時に、この主題そのものも(「拾遺」と題したこともあって、関係人物など幾らでも広がってしまうのだが)書くべきことは幾らでもあるのに、何となくそのままになっていたのである。
 その、準備していた(189)は、まだきちんと整えていないので来年何とかすることにして、今日は稲川淳二の怪談に触れて置くこととしたい。
・『稲川淳二のすご~く恐い話 PARTⅢ』第20話 おかあちゃんは、おんぶ(1)
 書影は12月15日付「『稲川淳二のすご~く恐い話』(1)」に、細目は12月18日付「『稲川淳二のすご~く恐い話』(4)」に示した。
 この話、2019年6月16日付(092)からしばらく比較検討した、次の3話のうち2話にそっくりである。ここでは本書を【D】として(【C】までは重複するが)以下のように整理して置こう。
【A】「民話と文学の会かいほう」No.50(1987.7)大島広志「父の背中」
     →『ピアスの白い糸』(1994.11)166頁15行め~167頁5行め
【B】講談社KK文庫『学校の怪談2』(1991.8)常光徹「おとうさんの肩」169頁5行め~171頁5行め
【C】「東京ミステリー」(1992夏)O・Sさん「お父さんの背中」217頁7行め~219頁8行め
【D】稲川淳二のすご~く恐い話 PARTⅢ』(1997.7)稲川淳二「おかあちゃんは、おんぶ」138~140頁4行め
 稲川淳二は本書に収録する前からライブで語っていたかも知れないが、時期的に【C】までの3話よりも後である。
〔1〕家族構成と夫婦が不和になるまで
【D】 138頁2~13行め

 何年か前の事件なんですがね、九州の方で起きた話ですよ。
 その一家はね、五、六歳の娘さんと、その下に三歳ぐらいの男の子がいる、四人家族/だったんです。
 ところがねえ、お母さんが、なにか遊びに出ていてですねえ、帰ってきた時に、お母/さんの不注意で、お姉ちゃんを交通事故で、亡くしてしまったんですよ。
 お母さん、責任を感じちゃってねえ、神経やられちゃいましてね、具合悪くなっちゃ/んですね。
 お父さんもたいへんですよねえ。
 最愛の娘は死んじゃうし、奥さんはおかしくなっちゃうし、家事はやらなきゃならな/い。下の子供は、まだ手のかかる盛りですよ。
 家の中は、やっぱり暗くなっちゃいますよね。
 そんなこんなで、今度はお父さんの方もおかしくなっちゃった、っていうんですね/え。*1【138】


 この話を稲川氏が他にどのくらい文字や録音にしているか、私はまだ確かめていないが、本書【D】はかなり初期の Version であるらしい。2年後の次のゲームソフトに「背負われた母親」と題して収録されている語りとは、かなりボリュームが違う。
・『稲川淳二 恐怖の屋敷』ヴィジット・1999年7月発売

 やったことはないが動画サイトに投稿されている「背負われた母親」を聞くに、休みの日に母親が2人の子供を連れて買物に行き、迷子になった娘が母を探すうちに赤信号の横断歩道に飛び出して死ぬことになっている。【D】では母親が「なにか遊び」で留守にしている間に娘が交通事故死することになっているが、その「不注意」の内容がよく分からない。【D】と『恐怖の屋敷』の間で練り上げたように思われるのである。
 さて、2019年6月16日付(092)に検討した3話のうち、男の子1人しかいない、従って娘の事故死の件がない【C】は除外して、先行する【A】【B】とは、2人の子供の年齢が少し上に設定されている他は、ほぼそのままである。
 いや、一番大きな違いは「何年か前」の「九州」の「事件」だと言っているところである。『恐怖の屋敷』では「これは北九州でかつて本当にあった話なんです」と語り出しており、時期を曖昧にする一方で、場所を酷く限定している。もちろん、実際にこんな事件が「何年か前」の九州であったとは――【A】【D】の10年前に報告されているのであり――思えない。あったとして、多々報告されていたらしい類話のうち九州、特に北九州と限定したものはないようである。どうして稲川氏だけがこれらの事実を知り得たのか、是非とも御教示願いたいものである。
 今日全部済ませてしまうつもりであったが長くなりそうなので続きは、流石にこんな話を明日と云う訳には行かぬので、少し置いてから上げることとしよう。(以下続稿)

*1:この、最後の行のメモが実は曖昧である。