瑣事加減

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黒井千次『漂う』(1)

黒井千次『漂う古い土地 新しい場所』印刷  二〇一三年八月一五日・発行  二〇一三年八月三〇日・定価1600円・毎日新聞社・175頁・四六判上製本

 本書の由来は170~175頁「あとがき」に説明されている。175頁9行め「二〇一三年 七夕の前夜に」付である。
 170頁4行め~171頁6行め、

 毎日新聞社の学芸部長であった重里徹也氏から、ひと月に一回、原稿用紙(四百字/詰め)三枚半ほどの随想とかエッセイとかいえるような文章を二年にわたって書いて/みないか、との誘いを受けた。短い文章を書くのは好きなので、喜んでその申し入れ/【170】をお受けした。
 二十四回にもわたって短い文章を綴り続けるとしたら、単なる身辺雑記というよ/り、なにか一貫したテーマを持つ文章の方が好ましいだろう、と考えた。そこで浮か/んだのが、これまで生きて来た中で、忘れ難い記憶に結びついている土地と、そこが/今どんな姿になっているかを、探してみたり確かめたりする再訪のシリーズを、毎回/一つの土地を取り上げて書いてみる、という企てだった。いわば、‥‥


 9行め~172頁3行め、

 月に一回一つの場所を訪れ、そこでの印象を確かめ、記憶との戯れを繰り返すの/は、楽しくもあり、手応えもある仕事であった。そんな経過を辿って毎日新聞夕刊に/「古い土地 新しい場所」と題した月一回の連載が始ったのは、二〇一〇年四月であ/った。
 前半の一年ほどは、自分が生れ育った東京の土地を対象とする運びになった。子供/の頃からの思い出を追うとしたら、十回でも二十回でもそれについて綴るのは少しも/【171】苦痛ではなさそうだった。
 しかし一年近く経つうちに、新聞夕刊の読者は全国にいるのだから、対象とする土/地を東京に限定するのは狭すぎるのではないか、と気がついた。‥‥


 そこで沖縄を除く日本全国を回ることになる。――文学賞の選考委員として毎年赴く小樽、家族旅行で過去の社員旅行を思い出して伊豆下田、仙台から震災繋がりで神戸、広島から原爆繋がりで長崎、と云った按配で、1箇所を除いて、あまり必然性もなく選んで行ったことが173頁14行めまで綴られる。
 そして174頁1~11行め、

 連載が終った後に本にして出版する計画が生れたために、連載をもう一年延長して/三年間、三十六回のシリーズとすることとなり、連載の期間も延長された。そして遠/方の地へ出かけるようになってからは、毎日新聞に学芸部員の棚部秀行記者に同行し/てもらい、大変お世話になった。一回分を書き上げてやれやれと思う間もなく、次は/何日にどこへ行くか、と棚部記者から電話がかかって来た。
 いずれもかつて足を運んだり滞在したりしたことのある土地ばかりだが、今は消/失、または姿を変えてしまっている景色を前にして、土地の人に昔のことを訊ねるこ/とが多かった。昔とはいつ頃のことか、と屢々*1反問された。自分の年齢から計算し/て、六十年とか七十年前かなと答えると、そんな昔のことはわからない、と笑われる/折が多かった。二〇一〇年四月の連載開始から二〇一三年三月の終了までの間に、こ/ちらも八十歳を迎えてそれを越したことになる。‥‥


 取り上げられているのは35箇所なので「プロローグ」が連載第1回だったことになる。ここで、各章の細目を見て置こう。
 ちなみに1頁14行で、各章冒頭9行取りでゆったり余白を取って、まづ1行めにやや大きく土地を題として示し、2行めに本文と同じ大きさで副題を添える。
 まづ【 】に仮に番号を打ち、1~3頁「目次」に倣って題と副題は1行にした。次いで収録位置(頁)、さらに恐らく連載順に収録していると云う勘定で発表年月を添えて置いた。
 4頁(頁付なし)の下部中央に明朝体縦組みでごく小さく「撮影 篠田英美/装丁 有山達也」とある。以下、本文は各4頁。たまに6頁取っている章は最後の2頁(頁付なし)を写真に使用している。
【1】プロローグ 記憶の光景と目の前の眺め(6~9頁)2010年4月
【2】大久保通り 身の奥から浮かぶバス通り(10~13頁)2010年5月
【3】国分寺街道 門だけが残っていた(14~19頁)2010年6月
【4】丸の内 商店街にいるような(20~23頁)2010年7月
【5】新宿 環状線の内と外(24~29頁)2010年8月
【6】井ノ頭通り 玉蜀黍畑に飛びこんだ日(30~33頁)2010年9月
【7】日比谷公園 ある年、ある時間の熱(34~37頁)2010年10月
【8】都心の夜景 色彩のドラマの底に(38~41頁)2010年11月
【9】箱根・精進ヶ池 最高地点から少し下って(42~45頁)2010年12月
【10】京都市学校歴史博物館 ひんやりした冷気とともに(46~49頁)2011年1月
【11】下田 忙しい港町(50~55頁)2011年2月
【12】目白 開かれなかった卒業式(56~59頁)2011年3月
【13】大阪・通天閣 地面から持ち上げる力(60~65頁)2011年4月
【14】横浜 遠藤さんと祖父に会いに(66~69頁)2011年5月
【15】小渕沢 緑の中のポップアート(70~73頁)2011年6月
【16】小樽 鷗と鴉が飛ぶ(74~77頁)2011年7月
【17】御宿 旅の駱駝がはるばると(78~81頁)2011年8月
【18】多摩川 手元に残る「入漁證」(82~85頁)2011年9月
【19】長野・上林温泉 疎開児、地獄谷を行く(86~89頁)2011年10月
【20】長野 六十年ぶりの「帰省」(90~93頁)2011年11月
【21】前橋 ただ川だけが流れる(94~97頁)2011年12月
【22】熱海 凋落の影の中に(98~103頁)2012年1月
【23】静岡 変らぬものは何もなく(104~107頁)2012年2月
【24】名古屋・東山動植物園 ライオンが跳んだ日(108~111頁)2012年3月
【25】新潟 古い煉瓦塀と光の海(112~115頁)2012年4月
【26】高尾山 昭和生まれの猿(116~121頁)2012年5月
【27】隅田川 西瓜ばかり食べていた(122~127頁)2012年6月
【28】羽田空港 国際便、ふたたび(128~133頁)2012年7月
【29】川越 遠くにある隣家(134~137頁)2012年8月
【30】仙台 モノクロームの海辺(138~141頁)2012年9月
【31】神戸 急な長い坂道の先に(142~147頁)2012年10月
【32】高松 未知なる故郷へ(148~151頁)2012年11月
【33】広島 歴史に屹立するドーム(152~155頁)2012年12月
【34】長崎 暮色を背にして(156~159頁)2013年1月
【35】有田 焼物の世界の近くに立つ(160~163頁)2013年2月
【36】東京駅 人と時間が戻る場所(164~169頁)2013年3月
 175頁の裏に奥付。目録類はない。(以下続稿)

*1:ルビ「しばしば」。