瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

山田野理夫編『佐々木喜善の昔話』(1)

 投稿してから読み直して、手を入れています。投稿する前に完璧に出来ていれば良いのですが、頭の構造がそうなっていないのか、何度もちょくちょく細かいところを直してしまうのです。一応、1月13日付の後半に断って置いてはあるのですが、それにしても昨日のはひどかった。ただ、次の記事をアップして後の加除については注記を残しておくつもりです。
 こんな調子だから、論文がなかなか仕上がらなかった訳です。

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 『遠野のザシキワラシとオシラサマ』を一応終わらせる前に、やはり佐々木喜善の著述を山田野理夫編集でまとめ、宝文館出版から刊行した『佐々木喜善の昔話』について、確認して置かないといけない。四六判上製本の昭和49年(1974)版と、四六判並製本の昭和63年(1988)版(『遠野の昔話』)がある。
 まず、昭和49年版から確認しておこう。奥付には「昭和四十九年五月十五日発行/定価一三〇〇円/著作 佐々木喜善/編集 山田野理夫/発行者 羽生和男/印刷者 寺井藤左エ門/発行所 宝文館出版〈株式/会社〉/……」とある。316頁。
 表紙カバーの装画は色を使わず黒のみだが、水木しげるによる細密な描写で、表紙の図柄は男神の面が台の上に載っているように見えるが、バーコードで一部隠れているのでよく分からない*1。なお、台に貼られた紙、一番上の枠内に「…奥神房津奥」と横書きで見えるが、下はもとから切れているので全文は不明。読める部分もよく分からない。右上に金色で「佐々木喜善の昔話」と、『日本伝説集』『遠野のザシキワラシとオシラサマ』などと同筆で入る。裏表紙は障子の前に頬被りをした顔の長い、垂れ目の中年男性が座り、その前は自在鉤のように見えるが、さらに手前には竈みたいになった上に桶があり、湯気が騰がっている。背表紙は白地に「佐々木喜善の昔話」と墨筆、下部に「宝文館/出 版」と明朝体で小さく入る。折返しは白で何も印刷されていない。
 これも本体は『遠野のザシキワラシとオシラサマ』と同じく毛皮のような模様のエンボスの、赤い表紙で、背表紙にのみ、カバー背表紙と全く同じ文字が銀で入っており、見返しも『遠野のザシキワラシとオシラサマ』と同じく鶯色地に墨筆で遠野の略図で、裁断位置のずれで多少範囲にずれが生じているが、同じものである。
 すなわち、印象がかなり違うもののカバー装画も同じ水木しげるで、本体の表紙・見返しに至っては全く同じものの使い回しである。刊行時期が3ヶ月ずれているけれども、本来『遠野のザシキワラシとオシラサマ』と『佐々木喜善の昔話』とは、一具のものとして作られているのである。
 そのことは、最終316頁の「〈「遠野のザシキワラシとオシラサマ」/「佐々木喜善の昔話」〉編集あとがき」により明らかになる。この「編集あとがき」は目次には出ていない。
 まず、山田氏が「佐々木喜善に就いて執筆した」因縁から始めているが、このことは別に書く機会もあろうから今回は省略する。本書の編集に関して注意すべき箇所を引くと、

……。この度、「奥州のザシキワラシの話」(大正九年刊)と単行本未収録のザシキワラシに関する話、さらにオシラサマ関係の著作を併せて一本とし、「遠野のザシキワラシとオシラサマ」として編集、刊行し、次いで佐々木喜善の死後本山桂川氏に拠って編集された「農民俚譚」(昭和九年刊)に単行本未収録の子供遊戯に関わる単行本未収録のエッセイ、遠野地方の風習行事を併せて新たに編集し成ったのが、本書「佐々木喜善の昔話」である。本来、編集過程では「遠野のザシキワラシとオシラサマ」と本書を一冊にする考えでいたが、紙幅の都合上これを二冊としたことを申添える。……

とあり、以下、「山下久男、本山桂川、菊池幹、松田稔、山田清吉、菊池照雄、さらにご遺族の佐々木広吉、佐々木光広、宝文館出版の羽生和男、宮崎英二の諸氏」への感謝の意を述べて締めくくっている。
 ところが、昭和63年版の同じ頁(316頁)では「昭和六十三年初夏」付の山田野理夫「後記」に差し替えられていて、当時の事情は全く省略されている。これも目次には出ていない(以下全文)。

 本書は「遠野のザシキワラシとオシラサマ」の姉妹編として編んだ「佐々木喜善の昔話」(昭和四十九年刊)を、このたび「遠野の昔話」と改題し、定本とした。
 なお、編集に宮崎英二氏の協力を得た。謝意を表する。


 さてその昭和63年版であるが、奥付には「遠野の昔話 ©/昭和六十三年五月十五日 初版第一刷印刷/昭和六十三年五月二十日 初版第一刷発行/著者 佐々木喜善/編者 山田野理夫/発行者 羽生和男/発行所 ……」とあって、『遠野のザシキワラシとオシラサマ』新装版の1ヶ月後の刊行である。『遠野のザシキワラシとオシラサマ』と違って奥付に「新装版」の文字がないが、これは『佐々木喜善の昔話』から『遠野の昔話』と改題したためであろうか。尤も、奥付の向かい合わせの316頁に上に引いた説明があるから、元版に気付けないという問題はない。『遠野のザシキワラシとオシラサマ』は「新装版」とは断ってはあったが、元版がいつ出たのか書いてない。ちなみに、本書には『遠野のザシキワラシとオシラサマ』が「姉妹編」である旨、昭和49年版・昭和63年版の316頁に明示されているが、『遠野のザシキワラシとオシラサマ』には「姉妹編」が準備されている旨の記述はなく、本書の広告もない。
 カバーは下部6.0cmが茶色い帯状になっているが、この色は印刷されているだけで帯ではない。横書き・白抜きで、まず1行目に大きく「佐々木喜善の昔話集」、続いて「「遠野物語」の語り手・佐々木喜善の『農民/俚譚』全稿と、昭和初頭*2の遠野地方の習俗・/祭礼・行事などの興味深い民俗資料を収める。/宝文館出版   定価 1300円」とある。中央に横長6.9×10.0cm のモノクロ写真(橙色地)がある。これは127頁写真と同じ、煙草を乾燥させている農家の庭を別の角度から撮影したものである。残りは白で、写真の上に横書きで、標題「遠野の昔話」と著者名「佐々木喜善」が2行で入る。背表紙は白い部分に標題と著者名が入り、茶色いところに白抜きで「みちのくの幻想」して最下部に横書きで「宝文館出版」とある。裏表紙は上部に「ISBN4-8320-1330-0 C0039 \1300E  定価 1300円」下部は縦書き・白抜きで「目次」の一部が「岩手郡昔話/和賀郡昔話/胆沢郡昔話/鳥虫木石伝/遠野雑記/岩手県遠野町誕生習俗/岩手県地方の婚姻習俗/岩手県遠野地方の葬礼/陸中国遠野郷にても冬期に於/ ける年中行事の一例/陸中紫波地方の桃太郎/ほか」と紹介されている。本体はクリーム色の目の細かい布目エンボスで、背表紙に標題と著者名・版元名が黒で入っている。
 この昭和63年版の問題点は、やはり改題であろう。カバーの帯状の部分の文字を追っても分かるように、内容は「遠野の昔話」ではない。そもそも昔話でない要素も少なくないし、地域も遠野に限定されていない。中に純然たる「遠野の昔話」のパートがあれば、それを代表させて標題に採用した、という言い訳も可能であるが、そうでもない。しかも、『佐々木喜善の昔話』刊行後、この改版を出すまでに、地域を遠野に限定しての純粋な昔話集で『遠野の昔話』と題するものが、既に2種刊行されていた。(以下続稿)

*1:隠れていなくても私の知識不足で分からないかも知れない。

*2:ここはバーコードを透かして読んでいるので自信がない。