瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

小説の設定

赤いマント(373)

・黒井千次『禁域』(2) 昨日の続きで、「花鋏を持つ子供」の設定を確認して置こう。 7~15頁「一」の冒頭部(7頁2行め~8頁11行め)が場所の説明になっている。長くなるので7頁5行め~8頁4行めを抜いて置こう。 省線の駅から大通りを来て左へ折れるその道…

赤いマント(372)

当ブログではこれまで黒井千次(1932.5.28生)の著書を2点取り上げている。初回の記事はそれぞれ、2022年9月1日付「黒井千次『たまらん坂』(1)」と2023年1月1日付「黒井千次『漂う』(1)」である。 黒井氏の小説は、海外に赴任することになった知人から…

森満喜子「濤江介正近」拾遺(01)

早速、今日・明日から課金記事の投稿を始めようと思っていたのだが、仕様が違うので中々慣れない。昨日無料部分を書き終えて、今日有料部分を書き掛けたのだが、システムエラーとかで保存出来なかった。 で、気分屋の私は忽ち、どうせ売れやしないのに課金記…

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(192)

昨日の記事(の冒頭)を見た家人から「拗らせてるみたいだ(から止しなさい)」と言われたのですけれども、この件に関して、私はかなり(近年諦念に支配されて激するようなことはないものの)立腹しているので、一昨日書いたことは当然の苦情であり、是非と…

森満喜子「濤江介正近」(17)

何度も言及しているが、東屋梢風のブログ「新選組の本を読む ~誠の栞~」の、2015/11/04「名和弓雄『間違いだらけの時代劇』」は、本作の題を「濤江之介正近」と誤るところが、少なからぬブログや Twitter(現 X)に踏襲されているところ(!)から却って察…

森満喜子「濤江介正近」(15)

昨日で書きたいところは書き終えてしまったので、もう止めにしたいところなのだが、ここまで来たら最後まで見て置こう。 1行分空けて94頁13~15行め、 水無瀬*1河原と呼ばれている河原に濤江介は連行された。多摩川の支流、南浅川の上流で、どう/いうものか…

森満喜子「濤江介正近」(14)

濤江介が江戸に戻って、両国橋で偶然、尚武堂新兵衛に再会したのは、いつだったろうか。 濤江介が新選組の壬生の屯所に身を寄せたのは文久三年(1863)六月、することがなくて退屈の余り、隊服を着て町中を出歩き、新選組隊士になりすまして豪商を強請ってい…

森満喜子「濤江介正近」(13)

昨日の続き。 もちろん、濤江介は近藤勇や沖田総司に偽刀作りの詳細を明かしたりはしないので、こうなるまでの経緯は87頁17行め~89頁7行めに、回想のような形で説明されている。――87頁17行め「小萩を連れて江戸の町を放浪している時、両国橋の上で偶然、尚武…

森満喜子「濤江介正近」(12)

前回長々と引用した場面は「冬の半ば」から「二カ月程」後だから文久四年(1864)正月と云う勘定になる。そして「二」節の最後の行(81頁10行め)は、 沖田が濤江介の声を聞いたのはそれから四年の後である。 となっていて、最後の「三」節は慶応四年(1868…

森満喜子「濤江介正近」(11)

それでは「二」節めの検討に入ろう。 この節は、70頁8行め「夏の陽」が照りつけて暑い日に、4行め「新選組副長助勤」の、2行め「沖田総司」が「部下を引きつれて市中巡察をしてい」る場面から始まる。文久三年(1863)六月であろう。文久三年は前年に閏月が…

森満喜子「濤江介正近」(10)

昨日の続き。 さて前回は、文久二年(1862)の「春の終り」に請け負った偽物の五郎正宗の大刀によって五十両もの大金を手にしながら、11ヶ月も経った文久三年(1863)二月になっても*1まだ、武蔵太郎安定の許での食客生活を濤江介が続けていることについて、…

森満喜子「濤江介正近」(09)

12月15日付(07)の続き。 57頁18行め~58頁8行め、 時代は安政から万延、文久と年号が変り、ペルリ来航に始まった幕末の世相は大きくゆれ動い/ていた。刀鍛治の間でも剣術を習う者が多くなって来た。世情不安のため、自己防衛の手段でも/【57】あるが、男…

森満喜子「濤江介正近」(7)

一念発起した濤江介は50頁18行め、その「翌日、突然、日野から消えて」19行め「武州八王子在恩方村字下原とその周辺*1」の「下原鍛冶と呼ばれる刀工の集落」に行き、51頁3行め「その刀鍛冶の最も大きな家の玄関に立」ち、入門を願う。しかし17行め「確かな添…

森満喜子「濤江介正近」(6)

前置きが長くなったが、森満喜子『沖田総司抄』所収「濤江介正近」の本文を見て行くこととしよう。 森氏は昭和48年(1973)に村上孝介に会って浮州の短刀を見せた際に、昭和44年(1969)刊『刀工下原鍛冶』をもらったはずである。会わずに送ってもらったのか…

森満喜子「濤江介正近」(4)

昨日の記事は、名和弓雄が森満喜子と村上孝介を引き合わせた(のだろう)と云う筋まで引いて置くつもりだったのである。 ところが書き始めて、改めて名和弓雄『続 間違いだらけの時代劇』を読み返し、その後仕入れた知識とも照らし合せて考えて見るに、どう…

森満喜子「濤江介正近」(3)

昨日の続き。――『沖田総司抄』は短篇小説8篇を収録するが、3篇め(47~96頁)が「濤江介正近*1」である。「あとがき」はまづ244頁2~3行め、 人間は一生のうちに様々な人との縁ができるものである。沖田総司と彼を廻る人びとについて/書いてみた。 として、…

森満喜子「濤江介正近」(2)

私は高校3年生のときだけ、誰に誘われたのだったか忘れたが文芸部に所属して、小説みたいなものを書いたことがあるのだが、そのとき隣のクラスの新選組ファンの女子生徒が実に堂々たる、長州の間者として新選組に紛れ込んだ若者を主人公にした小説を書いて、…

森満喜子「濤江介正近」(1)

森満喜子の本を何冊か借りて来た。いづれも版元は新人物往来社で四六判上製本である。 ・『沖田総司抄』昭和四十八年十二月十五日 第一刷発行・昭和五十二年十一月 五 日 第七刷発行・定価980円・246頁沖田総司抄 (1973年)Amazon・『沖田総司幻歌』昭和四…

大和田刑場跡(24)

・名和弓雄「沖田総司君の需めに応じ」(2) 昨日の続きで、まづ「捕物展」についてだが、もちろん昭和期の地方の百貨店の催事なぞは図録でも出していない限り、調べる手懸りがこれまでは摑めなかったのだが、国立国会図書館デジタルコレクションの公開範囲…

白馬岳の雪女(104)

以下、2021年8月22日に書き上げて23日に補訂して、仮に「白馬岳の雪女()牧野陽子の小松和彦説?」と題して保存して置いたものを、殆どそのまま投稿する。 「白馬岳の雪女」については一昨年の秋、信越の古書店からネット注文で長野・飯田・富山で戦前・戦…

石角春之助 編輯「江戸と東京」(6)

・濱本浩「塔の眺め」(2) さて、「塔の眺め」に戻ろう。以下しばらく、凌雲閣十二階から何処まで見渡せたのか、32頁下段8行めまで、濱本氏の調査が綴られている。今回は31頁上段11行めまで抜いて置こう。 そこで登つたことのありさうな知人に就て確めやう…

石角春之助 編輯「江戸と東京」(5)

・濱本浩「塔の眺め」(1) 昨日の続き。――佐藤健二の纏めた「喜多川周之「十二階凌雲閣」問わず語り」に拠ると、喜多川周之(1911.6.9~1986.11.13)は昭和35年(1960)頃に、添田知道(1902.6.14~1980.3.18)から濱本浩(1891.4.20~1959.3.12)が自分の…

祖母の蔵書(141)ファンタジー

祖母は怪奇や幻想には惹かれなかったらしく、そのような作品は間違って買ってしまったようだ。推理小説でもそのようなおどろおどろしい道具立てで盛り上げようとする作品は好みでなかったらしく、江戸川乱歩は1冊しか見ていないし、横溝正史も人形佐七だけは…

祖母の蔵書(100)内田百閒

寝間の本棚に次の2冊が、硝子扉の中に収まっていた。 ・『東京燒盡』昭和三十年四月十五日印刷・昭和三十年四月二十日發行・定價二八〇圓・大日本雄辯會講談社・261頁・四六判上製本 扉裏に墨書「 百鬼園/松木宣彦様」。 ・平山三郎 編『続百鬼園座談』一九…

祖母の蔵書(74)瀬戸内寂聴①

祖母が持っていた『源氏物語』関連の本については2020年3月15日付「紫式部『源氏物語』の現代語訳(1)」に瀬戸内寂聴の現代語訳を取り上げたことがあった。処分するつもりだったが今も手許にある。それで今更ながら刊年を誤入力していたことに気付き、訂正…

赤堀又次郎伝記考証(31)

・『書物通の書物随筆』第一巻『赤堀又次郎『読史随筆』』(3) 昨日の続きで、しばらく佐藤哲彦「解題」の「赤堀又次郎について」の出典(及び直接の依拠資料)について確認することとしたい。昨日列挙したブログ記事については【①空山】の如く、記事公開…

『稲川淳二の恐怖がたり』(4)

・竹書房文庫『ライブ全集①'93〜'95 稲川淳二の恐怖がたり〜祟り〜』(4) 本書に載る話のうち、既に検討を始めている首なし地蔵と淡谷のり子の体験談については、別記事にて検討する予定である。今、他の話について細かく検討する余裕はない。ここでは差当…

黒井千次『たまらん坂』(3)

③講談社文芸文庫(二〇〇八年七月一〇日第一刷発行・定価1300円・講談社・254頁)たまらん坂 武蔵野短篇集 (講談社文芸文庫)作者:黒井 千次講談社Amazon カバー表紙、副題は右上に小さく示す。カバー背表紙では標題の下に小さく添える。 カバー裏表紙、右側…

西澤裕子『風の盆』(2)

・時期と場所 まづ、作中の時間と場所を確認しつつ、章立てを見て置こう。なお、最後の場面は9月3日の深夜、昭和56年(1981)3月放映の銀河テレビ小説の原作だから、昭和55年(1980)と云うことになろう。最初はその前年の風の盆の稽古が始まった頃で、昭和5…

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(188)

・叢書東北の声44『杉村顕道作品集 伊達政宗の手紙』(11)「車夫の行方」 本作には執筆時期推定の手懸かりが全くない(と思う)。 84頁上段14行めに2行取りで「松尾芭蕉の手紙」と同じ「※」を打って、前後に分けてある。 物語は慶応四年(1868)五月十日、…