瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

2012-01-01から1ヶ月間の記事一覧

平井呈一『真夜中の檻』(14)

内山治作に初めて会ったのは、主人公が麻生家を脱出する前日の白昼である(94〜99頁)。その直後、麻生家を脱出しようとして登った裏山で、珠江夫人と一緒にいる治作を目撃する(104頁)。 治作の死体は「九月十六日」に「法木作村から約二里離れた、里俗地…

平井呈一『真夜中の檻』(13)

地理の確認は前回で一応切り上げて、他に気付いたことについて書いて置く。 * * * * * * * * * * 最後の「編集後記」に、編者戸崎信夫が主人公風間直樹の失踪当時を回想して、「当時編者は、あいにく戦後未曾有の政変の政変で、約半月あまりテント…

平井呈一『真夜中の檻』(12)

「法木作村」は、もちろん架空の村で、それが信濃川と渋海川の分水嶺に近い集落の位置に嵌込まれているだけなのである。 もし、本当にこの小説に書かれているようなことが実在の村にもあったとしたら、……いや、あるとは思えない。 だから、これ以上の突っ込…

平井呈一『真夜中の檻』(11)

主人公は「八海銀山」を1つの山と思っているらしく「何とか銀山」と呼んでいるが、「山と自然がわかる、探せる、行きたくなる! 登山情報サイト Yamakei Online」の「日本の山を検索」で、都道府県を「新潟県」にして全文検索で「銀山」と入れると、「銀山」…

平井呈一『真夜中の檻』(10)

もう少々根拠となりそうな記述を引いてみよう。 主人公が麻生家から脱出しようとして、裏山に登ってみる場面(100〜102頁)に、裏山からの眺望(101〜102頁)が記されている。これが「法木作村」の位置を考える上で、参考になろう。 登り切ってみると、なる…

平井呈一『真夜中の檻』(09)

石の道標には「左法木作村 右逃入村」とあった。 まず「右逃入村」の方であるが、確かに「迯入」という集落はある。「にぎり」と読む。けれども、迯入というバス停があるのは「右」ではなく「左」である。 ただ、地図で見ると二俣から「右」に進んだ辺りに「…

平井呈一『真夜中の檻』(08)

前回、法木作村のモデルなどと断定的に書いたのだけれども、決定的な証拠はない。 記述から大体は絞れるのだけれども、記述だけでは絞り切れないところもある。 とにかく、はっきりしているところまでを、辿ってみることにしたい。 * * * * * * * * …

平井呈一『真夜中の檻』(07)

今度は地理について、大まかな確認をして見たい。 地理の確認には、差し当たり入手参照がし易いことと、現在どうなっているかの見当を付けるために現在の地図を利用する。 しかし、それだけではいけないので、やはり当時の地図との対照が必要である。加えて…

平井呈一『真夜中の檻』(06)

整理してみよう。 昭和21年度に「県下の新制の大学」に入学し、その年のうちに退学したとして、翌年東京の大学に進学し、そして旧制の3年制としても、昭和22年度・23年度・24年度だから昭和25年(1950)春の卒業で、どうしても昭和24年(1949)春には卒業出…

平井呈一『真夜中の檻』(05)

「戸崎信夫」は主人公の「中学時代からの友人」で、「丸の内の新聞社」に「勤めている」(20頁)。手記を託(そうと)したくらいだから、主人公の戸崎への信頼は一方ならぬものがあるが、出発の「数日前」にも「有楽町の茶房」で会って「こんどの旅行の計画…

平井呈一『真夜中の檻』(04)

次に、編者がこの手記を入手した経緯を見て置こう。 * * * * * * * * * * 主人公風間直樹の手記の前後に編者による前置き(17頁)と「編集後記」(128〜130頁)がある。 主人公は昭和24年度(推定)の冬には学校を欠勤するようになり、辞表を送付…

平井呈一『真夜中の檻』(03)

もう少し時期の確認をして見たい。 手記の主人公(風間直樹)が麻生家に出掛けたのは、大学時代の「恩師辻村清助博士」の紹介による(18頁)。「博士は先年、同じ県下N――市に郷土博物館が開設されたさい、県人の先輩名士として記念公演をたのまれ、そのとき…

平井呈一『真夜中の檻』(02)

「真夜中の檻」は、行方不明になった友人の残した手記を発表する、という設定の枠物語(額縁小説)になっている。17頁に〔以下の文章は……念のため付記しておく。――昭和三十五年孟夏 編者しるす〕という前置きがあり、最後、128〜130頁に〔編集後記。――風間直…

平井呈一『真夜中の檻』(01)

『吸血鬼カーミラ』を読んで、疑問点を上げたり(1月9日付)して、それで先日来、図書館に行くと平井氏の本も注意している。そしたら訳書でない本が文庫の棚にあるのに気が付いた。真夜中の檻 (創元推理文庫)作者: 平井呈一出版社/メーカー: 東京創元社発売…

中島敦の文庫本(06)

・角川文庫294(6)略年譜 引続き、昭和43年(1968)の改版(②)と、昭和末か平成初年の改版(③)の比較。前者は改版二十四版、後者は改版三十七版を使用した。 一番最後にある郡司勝義編「年譜」(②239〜249頁・③246〜256頁)は、②236頁に「以下の私の略年…

中島敦の文庫本(05)

・角川文庫294(5)主要参考文献 引続き、昭和43年(1968)の改版(②)と、昭和末か平成初年の改版(③)を比較してみる。 前回取り上げたところまでは、②と③で組み方以上の違いは(たぶん)ない。 ②「主要参考文献」236〜238頁、③「主要参考文献目録」240〜…

中島敦の文庫本(04)

・角川文庫294(4) 昭和43年(1968)の改版(②)と、昭和末か平成初年の改版(③)を比較してみる。 ②は1頁18行、1行43字。文字は11.5×8.0cmに印刷されている。挿絵は10.5×7.5cm。 ③は1頁18行、1行42字。文字は12.0×8.2cmに印刷されている。挿絵は11.5×8.0c…

中島敦の文庫本(03)

・角川文庫294(3) さて、②③とも「昭和四十三年九月十日初版発行」となっていて、番号は引き継いでいるが①の「昭和二十七年二月二十五日初版發行」はなくなっている。昭和27年(1952)に角川文庫に入ったから「294」という番号になるのだが、現行の版では…

中島敦の文庫本(02)

・角川文庫294(2) 今度は②を紹介して、③と比較しながら双方について記述するべきなのだけれども、少々ややこしいので、先に①を紹介して置く。 * * * * * * * * * *①『李陵・弟子・名人傳』(昭和二十七年二月二十五日初版發行・昭和三十六年十二…

中島敦の文庫本(01)

・角川文庫294(1) まず、角川文庫から。李陵・山月記・弟子・名人伝 (角川文庫)作者: 中島敦出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店発売日: 1968/09/09メディア: 文庫購入: 6人 クリック: 53回この商品を含むブログ (39件) を見る なぜ角川文庫から始めるの…

美内すずえ『ガラスの仮面』(42)

続き。 * * * * * * * * * *・単行本第20巻134頁(文庫版第12巻248頁)1コマめ、 女性たち:きゃーん 女性A:「んま――っ! あの子ったら真澄さまにあんなに接近して…!/いかにも親しげに!」 女性B:「子供でも容しゃしないわよ!」 マヤが遠慮…

美内すずえ『ガラスの仮面』(41)

ガラスの仮面 (第20巻) (花とゆめCOMICS)作者: 美内すずえ出版社/メーカー: 白泉社発売日: 1981/09/01メディア: コミックこの商品を含むブログ (4件) を見る 文庫版第12巻120頁が単行本第20巻6頁、そして文庫版第12巻の最後307頁は単行本第20巻の最後193頁。…

平井呈一訳『吸血鬼カーミラ』(2)

・21頁6行め「一九一九年に、……」とあるが、1861年発表だからこの設定はあり得ない。かつ、作者ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュの生没年(1814〜1873.2.7)及び発表年からして、「一八一九年」は早過ぎるような気がしたのだが、原文を確認するに「In the…

平井呈一訳『吸血鬼カーミラ』(1)

私は怪談は好きだけれども、怪異小説はあまり好きではない。怪談に比して語り口が冗長だったり、妙にどぎつかったり、読んでいるうちに興醒めしてきて、続かなくなる。怪談にしてもくどい話し方は好きではない。それはそうと、怪異小説では、因果関係が説明…

鎌倉の案内書(13)

2011年7月26日付「塩嘗地蔵(024)」で紹介した神谷道倫『深く歩く 鎌倉史跡散策 上』(かまくら春秋社)の初版と増補版を対照してみたので、ここに記述して置きたい。 Amazonには増補版の書影が出ている。『上』の書影は2011年7月26日付に貼って置いたので…

鎌倉の案内書(12)

昨年の9月上旬から中旬にかけて書きかけていたもの。 * * * * * * * * * *・岩波ジュニア新書(岩波書店) 以前調べたことのある塩嘗地蔵の記述をもう一度拾ってみようと思ったのは、岡田寿彦・関戸勇『カラー版 鎌倉 感じる&わかるガイド(岩波…

木暮正夫『日本の怪奇ばなし』(01)

児童文学者の木暮正夫(1939.1.12〜2007.1.10)による全10巻の怪談シリーズ(岩崎書店)。岡本順(1962生)絵。A5判上製本カバー。 まず平成元年(1989)10月〜2年(1990)3月に『日本の怪奇ばなし』と題して刊行され、平成7年(1995)2月に『日本の怪談』と…

福田洋著・石川保昌編『図説|現代殺人事件史』(4)

2011年11月12日付(1)・2011年11月13日付(2)・2011年11月14日付(3)に続けて書き殴った駄文(2011年11月14日)。当時は恥じらいがあったが今になって上げても良いか、という気分になった。妄言多謝。 * * * * * * * * * * 増補新版で増補さ…

美内すずえ『ガラスの仮面』(40)

・単行本第19巻108頁(文庫版第12巻38頁)1コマめ、一ツ星学園体育倉庫で上演した一人芝居「通り雨」のト書きと駅の構内放送と主人公の台詞、 そしてある雨の日に父を迎えにいった駅の改札口で井村早苗をみかけたときのこと 放送:「3番線 立川行 ただいま…

美内すずえ『ガラスの仮面』(39)

・単行本第19巻21〜25頁(文庫版第11巻243〜247頁)の、マヤが公衆電話から大都芸能の速水真澄に電話する場面、単行本では電話越しの声を直線を交差させて作った八角形くらいの吹き出しによって表し、字体は他の台詞と同じく明朝体にしているが、文庫版では…