瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤い半纏(16)

ザテレビジョン文庫42『稲川淳二の怖い話 ベストランキング!!』(4)
 一昨日からの続き。18頁13〜16行め、

 最初、学校側は本気にしていなかったんです。
 どうせ、寮生のいたずら話だろうってね。
 ところが、何人もの寮生が聞いたというし、寮生のあいだでパニックが起こりだして/ね、とうとう、警察に相談することにしたんです。


 ネット上には「赤い半纏〈完全版〉」の他にも複数の録音が上がっていますが、場所は分教場を改造した寄宿舎で、差出人本人が次第に近付いて来る「赤〜い半纏着せましょか〜」を聞いたことになっています。さらに全く同じ体験をした人物が現れて、それで騒ぎになると云う流れなのですが、本書の「赤いはんてん」には、実際に体験したという人物は登場しません。
 こんな「うわさ」を「学校側は」当然「本気に」する訳がないでしょう。「何人もの寮生が聞いた」と云うのも、はっきり誰が聞いたと云う訳でもないのに、実在の寄宿舎の便所でこんな声が聞こえると云う以上は、誰かが聞いていないとおかしい訳で、それが「パニック」になるくらいならその誰かは、複数存在しないとおかしいと云う理屈になるはずです。まぁ人数の限られる寄宿生だけで「パニック」になるまで騒ぎが大きくなる訳がありませんから、むしろ自宅から通学している、寄宿舎とは関係のない生徒たちが無責任に増幅させた部分が大きかったろうと思うのです。
 ――と、ここまで、こんな話は嘘だ、と云う前提で考えて見ましたが、この話の中では実際に殺人事件が起こるのです。18頁17行め〜19頁14行め、

 警察の方も、十代の女の子が大勢住んでいる場所だけに変質者も出やすいだろうし、/また、事件が起こったら、大変だって思ったんでしょう。
 警官を派遣することにしたんです。
 屈強な若い警官と武術の心得のある婦人警官が寮にやって来て、見張りをすることに/なったんです。
 トイレの周囲はもちろんのこと、寮の周囲に警官が立ち、声の聞こえるトイレ内には/婦人警官が張り込んでいたんですよ。
 その夜のこと、婦人警官がトイレに張り込んでいると、いつものようにばあさんの声/が聞こえてきたんですよ。
「赤〜いはんてん、着せましょか〜」
 ってね。
 トイレに張り込んでいた婦人警官っていうのが、気の強い人でね。
 おそらく、いたずらの犯人の正体をつかんでやろうって思ったんでしょうね。
「着せられるものなら着せてみろ!」
 そう怒鳴り返したんです。


 「赤い半纏〈完全版〉」では2016年1月15日付(01)に引いた『怖い話はなぜモテる 怪談が時代を超えて愛される理由と同様に、警察が変質者についての聞き込みをせずに、いきなり便所に乗り込んできたことを「対応がおかしい」と妙に気にするのですが、ここではそんなこともなく進みます(まづ真偽の確認から始めるのは別におかしくないと思うのですが)。そして、いよいよ婦人警官が襲われる場面になるのですが、そこのところも「赤い半纏〈完全版〉」とは大分違っているのです。(以下続稿)