瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

中島敦の文庫本(09)

旺文社文庫(2)
 旺文社文庫『李陵・弟子・山月記』とその改版の上製本『李陵・山月記(愛と青春の名作集)』の比較の続き。

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 本文には、各頁の左に傍注がある。
 文庫版について見るに、「李陵」の人名のうち16項は、7頁注(1)「漢の武帝」に「以下、おもな人名については*記号をつけて、補注(一四六ページ)にかかげた。」とあるように、146〜150頁「補注」の前半(148頁下段13行めまで)に「李陵」としてまとめられている。「補注」の残りは「弟子」の『論語』からの引用13項と『孔子家語』からの引用1項で、これもその初出69頁注(1)に「補注(一四八ページ)参照。以下、*記号をつけた原典の書き下し文については、補注で解説した。」とあって、書き下し文と現代語訳を示している。上下2段組、1段25行、1行28字。
 上製本も注の内容は同じで、文庫版146頁下段16行め「【一一頁2】 煬帝*1 五八〇〜六一八、隋第二代の……」の生年の間違いも、上製本186頁上段2行め【一二頁8】でもそのままになっている。本文の傍注での補注参照の指示も、頁のずれ(7頁(1)一八五ページ、86頁(3)一八八ページ)以外は同じ。「補注」185〜188頁上段「李陵」、188頁下段〜191頁「弟子」。上下2段組、1段23行、1行24字。
 氷上英廣「解説」は文庫版151〜169頁・上製本193〜211頁で、ここのみ組み直さず拡大して(12.2×8.1cm→13.2×9.0cm)そのまま収めている。1頁19行、1行44字。
 内容について、文庫版の頁で確認して置こう。
 163頁4行めまでの「人と文学」と、163頁5行め以降の「作品の解説と鑑賞」に分けられている。
 「人と文学」は前置きがしばらくあって、以下152頁4行め〜153頁14行め〔幼少年期――漢学とエクゾティシズム〕153頁15行め〜155頁14行め〔学生時代――喘息とディレッタンティズム*2〕155頁15行め〜158頁9行め〔斗南先生――純粋なるもの〕158頁10行め〜160頁2行め〔教師時代――存在への懐疑〕160頁3行め〜162頁14行め〔南洋行きと光と風と夢』〕162頁15行め〜163頁4行め〔帰国と死〕。
 「作品の解説と鑑賞」は163頁6行め〜165頁12行め〔『李  陵』〕165頁13行め〜166頁8行め〔『弟  子』〕166頁9行め〜168頁8行め〔『山月記狐憑』〕168頁9行め〜169頁3行め〔『名 人 伝』〕最後に5行、「筆者紹介」がある。
 写真が5つ挿入されている。キャプションは横組み。151頁左上「中 島  敦」頭髪をきちんと分けた背広姿、154頁右上「一 高 時 代」学生帽に黒くない詰襟姿、157頁左上「中島敦の書―杜甫の詩より」、160頁右上「南洋から長男桓氏にあてたハガキ」*3、164頁右上「『李陵』の冒頭部分の原稿」清書原稿。
 上製本も同じだが、文庫版151頁の写真が楕円形で腹部から上が移っていたのを上製本193頁では長方形に修整し胸部より上を拡大して背景も差し替えている他、若干本文やルビを差し替えたところがある。
 151頁3行め『古譚』に文庫版「こだん」とルビがあったのを上製本193頁では差し替えて、やはり「こだん」としている。「こたん」に修正するつもりが間違えたものか*4。同じ151頁の最後の行(16行め)の下部「思想のいちじるし」は版に汚損があったのか、上製本193頁では同文だが組み直して入れている。上製本は文庫版の版を拡大しているが、それだけでなく文庫版157・164頁の写真が上製本199・206頁ではかなり濃くなっていることからも窺われるように、復刻に際して色合いを濃くしたことに起因するものであろう。或いは文庫版をスキャンした際に端の方のピントが合わず、ぼやけてしまったためかも知れない。とにかく、文庫版161頁(上製本203頁)の最後の行(17行め)「(『光と風と夢』)」、文庫版165頁の最後の行(18行め)「を憎」、文庫版166頁(上製本208頁)1行め「くるものは孔子」2行め「の場合とはま」と最後の行(18行め)「つづいて中島の虎は、なぜ自分がこのような運」、いずれも頁の端の下部が組み直されているのは、同様の理由であろう。
 但し、文庫版167頁12行めの下部「其家竊に之を知り、常に我を害せ」が上製本209頁「其家竊に之れ知り、常に我を害せ」に組み直されている*5のは文庫版の活字「竊」の状態が良くなかったためらしいが「を」を「れ」と誤植している。
 文庫版159頁15行め「阮籍」に「がんせき」とルビがあるが、上製本201頁「げんせき」に修正されている。
 最後の「筆者紹介」は組み直されている。異同を上げるとまず「東大教授」が「元、東大教授」に、専門分野を挙げた最初に鉤括弧の最初(「)だけあるがこれを削除している。訳書として挙がるシュバイツァーの「文化と倫理」が「文化と倫現」になっており、そして文庫版では5行で終わっていたのが上製本では6行めに「一九八六年没。」と追加されている。(以下続稿)

*1:ルビ「ようだい」。

*2:ルビ「ぜんそく」。

*3:【2月11日追記】昭和16年9月「十五日」付、「16.9.22トラツク郵便局」消印葉書の裏面。川村湊編『中島敦 父から子への南洋だより』(二〇〇二年一一月一〇日第一刷発行・定価3000円・集英社・255頁)108頁に表面の写真と裏面の翻字、109頁に裏面の写真が掲載されている。

*4:文庫版161頁(上製本203頁)2行めの『古譚』のルビ「こだん」は差し替えなし。

*5:ルビは双方とも「ひそか・これ」。