瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤いマント(95)

物集高音「赤きマント」(3)
 ついで富崎ゆうが赤マントの紹介をします。この小説は、登場人物の口調をそのまま写した会話によって展開するので、抜き出すとどうも可笑しな按配で、どうせならいっそ朗読劇でも作って音源を上げたい感じなのですけれども、それはともかくとして、ここはポイントになると思って煩を避けたのでしょう、地の文で書かれております。引用して見ましょう。23頁下段3〜18行め、

「そ、それ。いい? 赤マントはね……」
 時は昭和十五(一九四〇)年、日中戦争の最中で/ある。
 小学生がトイレで用を足している。不意に尻を撫/でられる。振り向くと赤マントを羽織った怪人がい/る。そんな噂が東京初め、全国的に広まった。話に/は幾つかのヴァリエーションがあった。ただ尻を撫/でるだけの〈素朴型>。夜な夜な街を彷徨って、女/子供に襲い掛かり、尻から血を吸うと云う〈通り魔/型>。トイレの中で「赤いマントと青いマント、ど/っらがいい?」と訊かれて、「赤いマント」と答え/ると、ナイフで刺されて全身血で真っ赤になり、/「青いマント」と答えれば、血を吸われて真っ青に/なると云う〈赤青型>。また、その変種として「赤/い紙、青い紙」「赤い手、青い手、白い手」「赤い半/天、青い半天」等があった。*1


 ここに紹介している型は当ブログでも全て一応の紹介を済ましております。注意したいのは昭和15年説を採っていることですが、実はこの後、昭和15年説は、否定されます。富崎嬢は、自ら持ち出した昭和15年説を自ら否定することになるのです。そこのところを曖昧にするために、わざと、ここは富崎嬢が説明しているはずなのですけれども地の文として、その印象を弱めているのではないか、と思われます。考え過ぎかも知れませんが。
 それでは次回から、富崎嬢の調査について確認して見ることとしましょう。(以下続稿)

*1:ルビ「ふい・はお。うわさ・そぼく・さまよ」。