瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

中島京子『小さいおうち』(6)

・健史の年齢とタキの死亡時期――ノートの執筆時期(3)――*1
 前回指摘したように第一章・第二章が1年め、第三章から第七章までが2年めの執筆であることは明らかである。だから改めるとすれば問題の箇所、第一章2、単行本7頁12行め・文庫版9頁14行めの「わたしもすでに米寿を越え、」を、差当り「わたしも来年は米寿を迎えることになり、」くらいに改めれば、前回までに指摘した箇所については矛盾なく収まりそうである。
 けれども、「米寿」とあるから平成19年(2005)という時期が算出されたので、「米寿」を外してしまっては、タキのノートの2年めが平成19年(2005)である、という根拠もなくなってしまう。そうしてさらに他の箇所についても検討を加えて見るに、ここは実は、――「三年後は米寿」くらいに改めた方が良さそうなのである。
 というのは、ヒロイン平井時子の息子・平井恭一に会った主人公布宮タキの甥の次男・健史は、恭一と次のような会話をしている。単行本315頁3〜4行め・文庫版336頁5〜6行め

「きみ、いくつ?」
「僕ですか。二十六です」


 誕生日がいつか、という問題が残るものの、例によって春から夏に掛けて誕生日を迎えていると仮定すると、この平成21年(2009)に26歳の健史は、昭和58年(1983)生ということになる。
 タキが死んだのは平井恭一に「四年前」と説明しているから、6月5日付(4)でも確認したように平成17年(2005)なのである。
 最終章2、残されたタキのノートをもらって、単行本281頁6行め・文庫版299頁18行め「一年ほど経過し」てから、単行本281頁7〜8行め・文庫版300頁1〜3行め、

 僕自身が、絵本作家志望だった当時の彼女とも別れ、大学を卒業し、一人、就職のた|めに上京/することになって、部屋の整理を始めたときに、ようやくそれを読むことにな|った。‥‥


 タキが死んだ時期を、6月5日付(4)に平成17年(2005)の年末に近い頃と推定して置いたのだが、これも「すでに米寿を越え」を排除すればこのような限定をする必要はなくなる。むしろ平成17年(2005)の早春と推定した方が都合が良い。健史が浪人や留年などせずに大学を卒業するとすれば、その時期は平成18年(2006)3月なのである。そうすると布宮タキ(1917〜2005)は満88歳を目前にして満87歳で死亡したことになる。
 単行本282頁7〜15行め・文庫版301頁1〜9行め「上京するとすぐに」健史は、まず「戦時中と戦後の一時期」山形でタキと同居したことのある「父の従兄で、大叔母の姉の息子にあた」る「軍治おじさん」を訪ねる。それから最終章4、平井時子の女学校時代の親友「睦子さん」を、彼女が編集していた雑誌『主婦之華』を国会図書館で閲覧することで、松岡睦子(1976没)と特定したところで、単行本292頁14〜15行め・文庫版312頁10〜11行め「社会人と|しての仕/事が始まっ」て、健史の調査は中断してしまう。(以下続稿)

*1:6月14日追記】見出しに「とタキの死亡時期――ノートの執筆時期(3)――」を追加した。