・ミステリーゾーン 体験実話シリーズ「水をくれ」(2)
昨日の続き。
さて、マサオの家でナカムラが語る話は、ナカムラのオジサンの体験と云うことで、実話と云うことになっているのだが、この種の話については2014年4月21日付(2)に触れたように、現在閉鎖されているが松山ひろしのサイト「現代奇談」*1の、「カシマ包囲網」の「かしまさん関連年表」に幾つも類話が挙がっており、「ミステリーゾーン」以前では昭和50年(1975)或いは昭和60年(1985)の例が見えている。もちろん報告されている時期が正確かどうか、問題があるけれども、2014年4月1日付(1)に触れたように、私も似た話を小学校低学年だった昭和54年(1979)までに聞いている。5月24日付「昭和50年代前半の記憶(1)」からしばらく回想した、昭和55年(1980)3月まで住んでいた場所でのことで、その次に昭和58年(1983)3月まで住んだのが歩いて行ける範囲に鉄道が走っていない場所だったので*2、やはり地方鉄道の無人踏切のイメージとともに、昭和50年代前半に住んでいた場所で聞いたことは間違いないと思う。やはり、昭和62年(1987)には既にそれなりに広まっていたと思われるので、ちょっと実話とは思われないし、メディアに取り上げられたのは初めてだったのだとしても、今更――の感、なきにしもあらず、である。
すなわち、この話のツボは人身事故の方ではなく、題にもなっているように「水をくれ」の方で、轢死したのが「まだ若い男で、ちょうど俺たちぐらいの年齢らしかったんだけど」と云う設定が、マサオとナカムラの友人みたいな顔(?)をして上がり込むと云う怪異現象に効果的に繋がっている。この、幽霊が付いて(憑いて)来て、憑かれた人には見えていなくて気付いていないのに、脇からは見えている、と云うパターンは、2011年1月2日付「「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(01)」や2012年4月21日付「終電車の幽霊(2)」に触れて、もっと例を挙げるつもりがそのままになっているが、これも別段珍しいものではない。けれども、これを上半身が追って来る話と上手く接合したところが、この「水をくれ」の手柄なのである。
念のため、実話としてその時期を検討して置こう。夜間に東北の山間部を、蒸気機関車の牽引する「貨物列車」が運行していた時期である。昭和30年代と云う見当であろうか。昭和50年代ではない。オジサンの年齢、父の兄なのか弟なのか、「伯父さん」か「叔父さん」か、文字にしないと長幼の順序が分からない*3ので、その辺りが分かればもう少し見当の付けようもあるのだけれども、――オジサン役はまだ子供っぽい喋り方で演じているけれども、事故前に「例の店」で「一杯引っ掛けるか」と言っていたから、もう成人している(と見て良かろう)。「地元の男たちが出稼ぎに行ってますからね」とも言っており、時代を感じさせる*4。それはともかく、もしこれが事実だとするならば、この種の話は昭和40年代以前に実際にあった事故がもとになっている、と云うことになるのだが、事情がもっと明らかにされないことには、オカルトマニアが番組に取り上げられることを狙って仕立てた怪異小説、との判断が穏当なところになるであろう。
ちなみに、昭和62年(1987)のラジオ番組の「水をくれ」も、11月20日付(11)及び11月21日付(12)に取り上げた、稲川淳二がいづれも平成8年(1996)の怪談ライブで語った、上半身だけの妖怪(?)に追い掛けられる「追ってくる上半身」、鉄道に轢断された身体が動く「魚篭に入ったもの(生首)」、鉄道ではないが轢断された上半身が動いた(?)「追ってくる上半身」も、それなりの影響力はあったかと思うが、松山氏の「かしまさん関連年表」には取り上げられていない。――「現代奇談」が更新されていた頃には、まだYouTubeもなかったから、放送時間に注意して録音・録画するかしていないことには、後から内容を知って確認することはほぼ不可能であった。今は商品化されていない番組も動画サイトで見ることが出来る。しかし合法的な存在ではないのでここには貼れないし、収録や放送の日時についてのデータも曖昧である*5。(以下続稿)
*1:インターネット・アーカイヴ「WayBack Machine」によって閲覧出来る。
*2:2014年3月24日付「楠勝平『おせん』(1)」に触れた、城内の図書館にバスで通った土地。バスにはよく乗ったが電車に乗った記憶は殆どない。
*3:これまで指摘して来たように、「伯父」と「叔父」を無神経に使っている例も少なくないが。
*4:なお、線路を歩いていて轢死する事故も昔は多かった。自動車もあまり走っていない時期、道路網も整備されていない頃には、線路を歩いて移動することが少なくなかった。――被害者は終列車に乗り損ね、線路を歩いて帰る途中、貨物列車の存在を知らず、気付くのが遅れて逃げ損なった、と云うことになろう。
*5:だからといって合法的に全て整理されてしまうと、儲けを生まない著作物は全く日の目を見ないことになってしまう。トランプ氏のおかげ(?)で著作権延長がしばらく保留されたが、しかし世の中の制度は力を持っている者に有利に変更されて行くから、全く安心出来ない。クリントン氏だったら(TPP反対は選挙対策の虚言だったのだから)確実に70年延長に日本も付き合わされた訳だし。――いや、嬉々として付き合うのか。