・I giochi del diavolo “la Venere d'Ille”(9)
主題曲から急に恐怖を煽るBGMに切り替わると、月明かりの下、暗い茂みの中を足音と共に移動する、人間の眼の高さから写した映像になる。ベッドに横になって右手に持った何かを見詰める主人公。暗いの画質が粗いのとで何だかは分からない。すぐに映像はさっきの視線に戻り、階段を上り始める。主人公の真剣な顔。
暖炉に火が燃える新婚夫婦の寝室では照明は寝台の脇の蝋燭のみとなり、帳を巡らした寝台で新婦クララが緊張しながら新郎アルフォンスを待っている。
視線は屋内に入り、主人公の寝室の前を足音を立てずに通り過ぎ、突き当たりの新婚夫婦の寝室に向かう。
気配を察した新婦がベッド脇の蝋燭を吹き消し、待ち構えているところにドアノブが軋む。ドアを軋ませ、さらに床を軋ませて入ってきたものに、新婦は新郎の名を呼び掛けるが返事がない。
視線が足音を立てながら寝台へと近付く。
再び新郎の名を呼び、少し笑顔も見せた新婦、しかしその笑顔はすぐに消える。煽るBGMが続く。
次第次第に寝台のレースの帳に寄って来たものが新郎ではないと気付いて恐怖するクララ。竦んで震え出し、そして帳を開けて入って来たものを見て、小さく「アっアっ」と恐怖の叫びを上げて、寝台から跳ね飛ばされるように床に落ちるクララ。そこでBGMが止む。
そこへ、豪快にドアが開く音がする。新婦の恐怖はいよいよ高まり、震えが止まらなくなる。しかし入ってきたのは新郎のアルフォンス君で、寝台に向かって「クラーラ♪」と声を掛ける。――これまでどこで時間を潰していたのか、原作でもちょっと謎なのだが、主人公に確かめるよう言ったことで安心したのか、特に何かに脅えているような様子もない。
ドアを閉め、白のスカーフを外し、寝台に近付いて黒の上着を脱ぐ。クララは新郎に声を掛けようとするのだが、声が出ない。黒のベストも脱いで、寝台の帳に身を寄せたところで、帳の中から腕が回されて、アルフォンス君の胸に抱き付く。そして寝台に倒れ込む。恐怖のBGMが流れる中、新郎の呻く声が聞こえ、新婦は右側だけだが耳を塞ぐ。そして骨が砕ける音を聞いたところで、気を失うのである。
主人公の描いたクララ(だか女神像だか)の顔のスケッチに朝日が差して、屋外に鶏の鳴き声が響く。着替えないまま寝台で寝ていた主人公は、廊下を走ったり何か騒ぐ声や音に、目を覚ます。続いて Peyrehorade 夫人の泣き叫ぶ声がして、ただ事ではないと起きあがる。
新婚夫婦の寝台では、アルフォンス君が仰向けに倒れて死んでいる。早朝のこととて、新婚夫婦の寝室の場面は青みを帯びて薄暗い白い光の中で展開される。泣きじゃくる Peyrehorade 夫人の嗚咽が響く中、呆然と立ちつくす Peyrehorade 氏、アルフォンス君の足の先では、取り乱す夫人にマリアなど下女2人が付き添っている。――4月15日付(13)に見たように、マリアもアルフォンス君と関係があったことになっているが、当時の階級社会では御曹司との結婚など望むべくもないので、そこはもう割り切っているようだ。立ちつくす主人公。息子の死体のすぐ脇に立っていた Peyrehorade 氏が主人公に話しかける。床に座り込んでいるクララに気付いて目をやると、クララも主人公の視線に気付いて顔を上げる。ここで例のロマンチックな主題曲が流れる。主人公を見て、クララは震えながら目に涙を浮かべる。4月6日付(07)におばさんに見えると書いたが、この辺りのクララは初々しい新婦にしか見えません。クララに見詰められた主人公もクララを見詰めながら近付いて行くと、何かを踏んづける。床に落ちていたのは、例の握り合った手にダイヤモンドを2つ付け足した指輪であった。主人公が拾い上げて、指輪が大写しになり、それがぼやけてBGMも消えると同時にラストシーンになる。
原作では、ちょうど Ille を巡回中であった、杉氏「ペルピニャンの地方検事」西本氏「ペルピニャン王立裁判所の検事」平岡氏「ペルピニャン地方の主席検察官」が捜査に乗り出すのだが、花嫁の供述が気違い扱いされたり、4月18日付(16)に見たポームの試合でアルフォンス君に侮辱された相手の主将が連行されて取り調べられるのだが、TVドラマでは検事が相手にしなかった花嫁の体験が事実として(?)映像化されているので、このような場面はない。(以下続稿)