・末広昌雄「雪の夜の伝説」(14)
昨日の続きで、末広氏が依拠したと思しき佐々木喜善『東奥異聞』の「嫁子ネズミの話」の「一」節め、3段落めの後半を抜いて置きましょう。
‥‥。その小屋では狩人が、たださえ女という語を嫌うのに、ましてなによりいちばん忌むのは産火であるから、もちろんその女を小屋のなかに入れようはずがありません。それにこの真夜中に女がただの一人、これはてっきり魔物なんだろうと早合点して、スカリ(組頭)が筒先を差し向けると、女はさも無念そうにすごすごとどことなしに立ち去ってゆきました。
昭和31年(1956)の「山と高原」二月号(第二三三号)掲載「雪の夜の伝説」の「狩山の鼠」の該当箇所、56頁2段め29行め〜3段め6行めは、
‥‥。その小/屋では、狩人が大変に女と云う語を嫌うの【2段め】に、まして何より忌むのは産火であるか/ら、勿論宿を貸そう筈もなく、それにこの/猛吹雪の真夜中に唯一人の山歩きは、てっ/きり魔物だろうと、組頭が筒先を差向ける/と、女はさも無念そうにすごすごと吹雪の/戸外へ立ち去った。‥‥
となっており、前回注意したように『東奥異聞』では特に注意していない天候について「猛吹雪の真夜中」やら「吹雪の戸外へ」などと殊更に書き足されています。
次に、平成4年(1992)の「あしなか」第弐百弐拾四輯掲載「山の伝説」の「山の神の伝説」の、5段落め(16頁下段18〜24行め)を抜いて見ます。
その小屋では、狩人たちは非常に女と言う/言葉を嫌うのに、まして何より忌むのは産火/であるから、もちろん、宿を貸そうはずもな/い。それにこの猛吹雪の真夜中にただ一人で/の山歩きは、てっきり化け物だろうと、組頭/が鉄砲の筒先を女に向けると、女はさも残念/そうにすごすごと吹雪の戸外へ立ち去った。
「山と高原」との異同を仮に太字にして見ました。「山と高原」をもとに、言葉を改め、補っていることが良く分かります。(以下続稿)