瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

『大鏡』の文庫本(1)

岩波文庫30-104-1(1)
・1964年1月16日第1刷発行©
・1977年3月10日第15刷発行(331頁)¥300*1
・1985年9月20日第22刷発行(332頁)定価450円
・1988年7月25日第25刷発行(332頁)定価500円*2
・1992年9月5日第29刷発行(332頁)定価553円*3
・1994年6月6日第31刷発行(341頁)定価602円*4
・2000年5月25日第34刷発行(341頁)定価700円
・2001年5月15日第35刷発行(341頁)定価700円*5
 今や古典文学の文庫本は、現代語訳は必須、さらに詳しい解説・鑑賞を付して、原文を読めなくても内容が分かる(!)ような作りになっていないと駄目だと思われているらしい。そこまで周到に用意したものを作っても、今時の高校生は読まないだろう。
 本書は名古屋大学教授であった松村博司(1909.11.5〜1990.10.30)校注で、句読点と濁点、会話を示す鍵括弧を新たに付しただけで段落分けもしていない底本の翻刻と、簡単な注しかないから、通読するには別に辞書・参考書を用意しないといけない。こんな文庫本がほぼ毎年増刷されていたのは、大学の国文科の教科書として使用されていたからであろう。しかし今では品切重版未定である。仮に『大鏡』を国文学演習などの授業で取り上げる大学があったとして、こんな作りでは今時の学生の使用に堪えないであろう。このまま絶版になってしまいそうだ。
 かく云う私も、高校時代まだ刊行されて数年しか経っていなかった、講談社学術文庫の全現代語訳を拾い読みして楽しんでいたのだから、偉そうなことは云えないのだけれども。講談社学術文庫版については別に述べることとしよう。
 それはともかく、先日立ち寄った図書館で手にした第34刷を見るに、奥付には「改版」としていないが、333〜337頁「補説」を見るに、第1刷そのままではないのである。すなわち、333頁2〜3行めは2字下げでやや小さく、

凡例におけるわかりにくい表現を改めるとともに、新しく略系図を付載した機会に、最近/における『大鏡』成立に関する私見を解説の補説として記した。

との前置きがあって、1行空けて本題に入っている。「略系図」というのは338〜339頁見開き「[藤原氏系圖]」と340〜341頁見開き「[帝王・源氏系圖]」である。4〜14行めは底本とした東松本の発見と位置付けについて略述し、そして334頁1〜3行め、

 本文庫の解説は一九六三年(昭和三八)の執筆にかかり、すでに三十年近い過去のもので、東/松本に見る取合せ本ということに発して、『大鏡』成立に関する最近の私見とはかなり隔りが/ある。しかし、その委細を述べることはできないので、以下骨子だけを述べるにとどめる。

とあってこの「機会」が「三十年近」く後のことであることが分かるが、具体的には最後、337頁3〜8行めに、

 今後の課題として、二度にわたる改修増補を通じて、なぜそのようなことが行なわれなけれ/ばならなかったか、および改修増補者について考えなければならない。私見の委細は次の諸篇/を見られたい。
 『栄花物語大鏡の成立』 昭和五十九年 桜楓社
 「原型本大鏡復原試案」 名古屋大学国語国文学59号 昭和六十一年十二月
 「大鏡の成立」(『栄花物語の研究』補説篇所収) 平成元年 風間書房

とあって、『栄花物語の研究』補説篇が平成元年(1989)9月刊だから、松村氏の最晩年、平成元年(1989)9月から平成2年(1990)に掛けてなされたものであると察せられる。(以下続稿)

*1:10月4日追加。

*2:9月18日追加。

*3:7月28日追加。

*4:2019年1月28日追加。

*5:9月16日追加。