瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

七人坊主(5)

 「もう一つの異なるテキスト」について、小池氏の紹介を引用して置こう。『怪奇探偵の実録事件ファイル2』24頁。

 浅沼良次編『八丈島の民話』(未来社)が記録する伝説のバージョンによれば、僧侶た/ちが流れついた場所は、「平根が浦*1」という海岸である。そして、村人が僧侶を死に至ら/しめた理由は、飢饉だったからということにはなっていない。僧侶たちは、気合一つで鳥/を落とし、むしゃむしゃ食べていた。それを目撃した村人が、「魔術を使う恐ろしい坊さ/ん」が来たと思いこみ、道に柵を設けて交通を遮断した、という話になっている。
 このテキストのほうが、僧侶が村に祟りをなす根拠が、すんなりと理解できる。すなわ/ち、生活習慣の違いから生まれた誤解が、村人と僧侶たちとの対立を生んだ話として読め/るのである。僧侶が「魔術」を使ったというのは、何かのメタファーと思われる。


 浅沼良次編『八丈島の民話(日本の民話40)』は、未来社から出ていた「日本の民話」シリーズの1冊である。私が図書館に入り浸り始めた頃には、NDC「388」の棚にこのシリーズがずらっと並んでいたものだった。いくつかの版があるのだが、それについてはまた別に記述することとしたい。ここでは、一番新しい新装・オンデマンド版(2006年7月20日発行・定価3400円・210頁)に拠る。これは元版の第九刷(一九六五年八月一五日第一刷発行・一九八〇年七月一〇日第九刷発行)をオンデマンド出版したもので、元版は上製本だったのがこちらは並製本になっている。61話とわらべうたが収録されているが33番め(113〜116頁)が「七人の坊さん」である。前半は小池氏のまとめた通りで、細かいところには後日触れるつもりだが、まず後半、七人の坊主が死んでからの部分を引用してみよう。

 それから、民家の付近を白い衣を着た坊さんの亡霊が歩きまわり、村人は悩まされました。それと/ともに農作物が不作になり、家畜が死んだりする不幸が続きましたので、村人たちは巫女を頼んで拝/ませたところ、
 「七人の坊さんのたたりでおじゃる」
と巫女がいいましたので、村人たちは東山の頂上に、七人の塚を建てて祈り、七人の坊さんの霊を慰/めました。
 しかし、これだけのことをしても、坊さんたちの怨みは晴れないのか、東山の頂上付近で坊さんの/話をしたり、わる口をいったりすると、かならず怪我や災難が起きるのでした。
 昭和二十七年のことですが、東山を横断して潮間海岸へ通じる林道工事が、八丈支庁の力ぞえで進/められました。そのとき工事に働いていた村人数名が、頂上近くで、
 「そりゃ坊さん、こりゃ坊さん」
とハヤシたてながら、タコツキ*2をしました。ところがその翌日、現場付近で山崩れがおこり、工事中/の村人七名が生埋めになって死亡しました。人数が坊さんと同数の七名であり、またいわくつきの場(以上115頁)所だけに、当時みんなから不思議がられました。


 そして116頁左下に「原 話」として「中之郷  佐々木 ■■郎(七八)/中之郷  山 下 ■ 乃(故人)」とある。ちなみに佐々木氏の名は42番め(143〜144頁)の「汗を流す地蔵」の「原 話」にも「中之郷  佐々木 ■■郎(八〇)/中之郷  山 下 ■ 奈(七八)」と見えている。同一人物だと思われるが年齢が違う。
 さて、瓢箪型の八丈島は北西部の西山(八丈富士)と南東部が東山(三原山)とから成っており、東山の南麓が中之郷なのだが、東山の山裾には八丈循環線(都道215号)三原山周回路が走っている。菊池氏の記述だと(地名は「八丈島」のみで)中之郷などの村名は示されていないが、この都道の中之郷と末吉の境の峠が事故現場と設定されているように読める。しかしながら、実際には小池氏が訪ねたように、この都道から海の方へ突き出した小岩戸ヶ鼻へ向かう林道が事故現場なのである。この道は現在は、小池氏が『怪奇探偵の実録事件ファイル2』50頁に示している(51頁に写真)ように「東山林道」と呼ばれており、東京都八丈支庁のHPの「支庁管内の林道」にも「東山林道」と見え、別に「八丈島の林道(東山線)」という紹介ページもある。yubinitakoのブログ「関東ふれあいの道を歩こう(八丈島の紹介もしています)2011-03-27「小岩戸ヶ鼻に行きました」は今年の春、この道路を歩いての報告*310月13日付(1)にリンクを貼った小池氏撮影の写真とは、随分印象が違う。
 それはともかく「林道」を事故現場とするのは小池氏の調査と合致するのだが、「東山の頂上」では、事故現場とは全く違ってしまう。或いは東山(三原山)とは別に、この林道を現在「東山林道」或いは「東山線」と称するように、この辺りも「東山」と呼ばれているのだろうか。だとすると、別に東山(三原山)についての話も掲載されているので、なんとも紛らわしい書き方なのである。(以下続稿)

*1:ルビ「ひらね・うら」。

*2:「タコツ」の右傍に「(地固め)」とあり。

*3:yubinitakoのブログは移転していてリンクをクリックすると移転先の「長距離自然歩道を歩こう」に飛ぶ。記事の方からも移転先のトップページに飛ぶので記事のリンクを貼付しておこう。2011/3/27「小岩戸ヶ鼻に行きました」。2011-05-15 「小岩戸ヶ鼻&三原滝」にも再訪している。