瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

七人坊主(48)

 昨日の続き。
 さて、鳥をどうしたのか、だが、矢口氏の報告は「鳩を撃った」とだけで、食べるために撃ったのだろうがそれでどうしたかを説明していない。『東京の伝説』には目的は書いてあるが食べ方の説明はない。しかるに、浅沼良次編『八丈島の民話』は鳩と特定していないが、生のまま食べた、としている。頭で考えて合理化した説明のようではあるが、これが『八丈島の民話』では、7人の坊主が悲劇的な最期を遂げることとなった主要因として設定されているのである。
 この辺りのことは、小池氏の要約を2011年10月18日付(05)に示して置いた。ここでは原文を見て置こう。『八丈島の民話』114頁9行め〜115頁3行め。

 ところが、その有様を山へ薪をとりに来ていた村人の一人が、木陰から眺めてぶったまげ、村にか/け下り、
 「魔術を使うおっかなけ*1坊さんが多勢、東山げい来ておじゃる」
と村中にふれまわりました。それを聞いた村人たちは、
 「そごんおっかなけ坊さんめらが、村へ下りて来たら、あだどう*2ことになり申すか大変でおじゃる」
といって、おおあわてで東山から村に通じる道路に「チガヤ」をさかさにひいて、すべるようにした/り、シダキや椿の幹で頑丈な柵をつくりました。
 七人の坊さんは、そのため村に下ることが出来ませんでした。仕方がないので東山の頂上に住みつ/き、そこで木の実や、草の根、野鳥をとって食べ、細々と命をつないでいました。
 「どこが八丈島は情け島どう、八丈島の人は鬼めだら、サカサガヤにか上手だれ、シダキでっぽう*3/にか上手だれ」
と坊さんたちはいって、村人たちのつめたい仕打を憤りましたが、‥‥


 これに続いて115頁3〜4行めに7人の死に場所が語られるが、ここは2011年10月19日付(06)に引用して置いた。
 さて、この引用は8月9日付(46)の引用の続きだが、そこでも注意したように、「八丈島と申すと、情けにあつい島」と聞いていたのがこんな風に大いに裏切られたために、恨みが増幅されたという構図になっている訳である。

 小池氏の『怪奇探偵の実録事件ファイル2』は、菊池氏の『ほんとうにあったおばけの話⑩』所収の話を詳しく紹介し、浅沼氏の『八丈島の民話』は坊主が村に入れてもらえなかった理由についてごく簡略に要約するに止めていた。
 小池氏による菊池氏の話の要約は、後段のみ2011年10月14日付(02)に引用して置いた。原文も一部、2011年10月14日付(02)及び2011年10月17日付(04)に引用してある。前段は「あるテレビ番組の恐怖コーナーを担当するディレクターのM氏」との電話越しの会話という形式で紹介されている。
 ここでは、傳説の発端を確認して置きたい。『怪奇探偵の実録事件ファイル2』20頁6〜8行め、M氏の台詞として次のようにある。

八丈島に古くから伝わる伝説なんです。江戸時代の話らしいんですが、七人の坊さんが/乗っていた船が難破して、八丈島に流れ着いたことがあったと。彼らは島の人たちに助け/を求めたが、あいにく島は大飢饉の真っ最中だったという話……」


 これで見ると漂着説のように読める。
 しかし、原文を参照すると以下のようになっている。『ほんとうにあったおばけの話⑩』の「七人ぼうずのたたり」の冒頭部(92頁1〜10行め)を引いて置こう。

 村ざかいのとうげを、トラックでとおるた/びに、おれはいまでも、ナムアミダブツと/いっちゃうね。ほかのことならともかく、/〈七人ぼうず〉のたたりだけは、ほんとうに/あると、おれは信じているんだ。*4
 七人ぼうずというのは、江戸の時代に、こ/の島にながれついてきた、お坊さんたちのこ/とだがね。なぜ、そろいもそろって、坊さん/ばかりが七人も、この八丈島までながされ/たのかは、わからんな。*5


 2011年10月16日付(03)に注意したように「おれ」が今も島で「トラック」を運転しているというのは菊池氏の創作である。
 さて、続いて八丈島の位置が説明されている(92頁11行め〜13行め〜93頁1行め)が、流人の島であったことは述べられていない。この「ながれついてきた」という書き方は漂着説のようであるが、次の一文の「なぜ、‥‥ながされたのかは」からすると、流罪説のようでもある。8月7日付(45)で見た『東京の伝説』がそうであったように、流罪であっても漂着に近い形になることは少なくなかったであろう。しかし風に船が「ながされた」と取ることも、不可能ではない。……ちょっとここは「わからんな」と、匙を投げて置く。(以下続稿)

*1:「おっかなけ」の右傍に「(おそろしい)」と注記。

*2:「あだどう」の右傍に「(どのような)」と注記。

*3:この行(115頁1行め)の「だれ、」から行末までの右傍に「(木の実を弾にしたてっぽう)」と注記。

*4:ルビ「にん・しん」。また「たたり」に傍点(ヽ)。

*5:ルビ「にん・えど・じだい・しま・ぼう・ぼう・にん・はちじようじま」。