瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

美内すずえ『ガラスの仮面』(36)

・単行本第18巻75頁文庫版第11巻105頁)6コマめ、ビアンカの許婚「ロレンツ」の名が初めて見える*1。しかし「Lorenzo」は「ロレンツ」と書くべきではないか。94頁文庫版第11巻124頁)5コマめの「大臣のモルフ伯さま」のように。しかし以下全て「ロレンツ」で文庫版でもそのままになっている。
・単行本第18巻78頁文庫版第11巻108頁)4コマめ、ビアンカの台詞で当時の地中海をめぐる国際情勢を説明している。

ビアンカ(マヤ):「ジェノバヴェネチアが手を結び強国になることを恐れる/ミラノや東ローマ帝国 それにスペインやトルコなど/敵国がわたしとロレンツオさまにむけて刺客をはなったとか/ぶっそうな噂が身辺を緊張させていたのでございます」


 同じような説明は単行本第18巻91頁文庫版第11巻121頁)8コマめにもある。

ビアンカ(マヤ):「ジェノバヴェネチア…/強大な海軍力をもつ2つの国が手を結べばその力は倍加するわ/まわりの国々はそれを恐れている…/地中海で最強の海軍力を誇るスペイン トルコ…/そして敵対するミラノ 東ローマ帝国…」


 これがいつのことかというと、単行本第18巻では「中世」とか「ルネサンス」とか漠然としていて、特定していない。ところが、文庫版第11巻では開演直後、93頁3コマめに、

ビアンカ(マヤ):「ただいま 時は1523年/イタリアではルネッサンス文化 華やかなりし頃でございます」

との台詞がある。この台詞の前半は「ただいま/時は/1523年」と3行になっているが、ここのところ単行本第18巻63頁では「ただいま/時は中世/  」となっており、吹き出しの最後に1行分の余白がある。これは連載時、3行に文字を配していたのを何らかの事情で削除したためだと思われる。――恐らく連載時には文庫版と同じ文字が入っていたのを、単行本にするに際して「1523年」という明確な年を漠然とした「中世」に差し替えたものと思われる。初出を見ていないので単なる憶測だが。
 この推定が合っているとして、その理由は、簡単だ。列挙されている「敵国」のうち「東ローマ帝国」は1453年オスマントルコに首都コンスタンチノープルを攻め落とされて、滅亡している。16世紀の初頭に生まれたビアンカ*2の意識するような国ではない。
 滅亡前にしても殆ど無力であったから、ルネサンス期に敵対しているというのであれば、東ローマ帝国ではなく神聖ローマ帝国オーストリアハプスブルク家)を挙げるべきではないか。それはともかく、再演時に観劇に来た生徒会担当らしき男性教諭*3が、単行本第18巻151頁文庫版第11巻181頁)5コマめ「わしはルネサンスの歴史をまちがって伝えてないか確かめに…/世界史担当」と言っているが、この「まちがって」発言に応じて(?)読者からこの時代錯誤について指摘があったのではないか。そこで単行本化に当たって、差し当たり「中世」に差し替えた。ところが、文庫版を出すに際してチェックを入れた際に、校正者がこの不自然な余白を気にして、初出誌に遡って、或いは生原稿を確認して(勝手に入れるとも思えない)「1523年」に戻してしまったのでは、と想像してみる。当たっているかどうかは分からない。1523年であれば、神聖ローマ皇帝カール5世(在位1519〜1556)とスペイン王カルロス1世(在位1516〜1556)とは同一人物(1500〜1558。ハプスブルク家)なのだけれども。そういえば単行本第18巻114頁文庫版第11巻144頁)3コマめ「レオノーラ伯母」は「スペインの手先」だった。(以下続稿)

*1:一人芝居だが演出を工夫して単行本第18巻100101頁文庫版第11巻130131頁)に登場させている。また単行本第18巻98頁文庫版第11巻128頁)2コマめに説明台詞に基づく全身像が、3コマめに顔が、描かれている。

*2:単行本第18巻75頁文庫版第11巻105頁)5コマめや79頁(同109頁)5コマめ・108頁(同138頁)3コマめ「13歳」で見合い、単行本第18巻101頁文庫版第11巻131頁)1コマめ・79頁(同139頁)2コマめ及び112頁(同142頁)7コマめからしてその1年半後に亡命、単行本第18巻6869頁文庫版第11巻9899頁)によれば男装の海賊ニコロとなって7年、で1523年になっているのだから、この設定だと生年は1501年頃。

*3:単行本第18巻137頁文庫版第11巻167頁)3コマめや154頁(同184頁)7コマめで、職員室でマヤに対し投書箱の投書内容につき説明している。