瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

平井呈一『真夜中の檻』(11)

 主人公は「八海銀山」を1つの山と思っているらしく「何とか銀山」と呼んでいるが、「山と自然がわかる、探せる、行きたくなる! 登山情報サイト Yamakei Online」の「日本の山を検索」で、都道府県を「新潟県」にして全文検索で「銀山」と入れると、「銀山」とは越後三山の最高峰中ノ岳(2085.2m)の別称(古称)と出る。
 越後三山は中ノ岳と駒ヶ岳(2002.7m)八海山(1778m)の三山で、この辺りから見て南東に35kmほど離れている。このうちの「八海、銀山」が切れ目なく聞こえたものらしい。治作がいう「よっぽど高い」山はこれで間違いなかろう。
 ところが主人公の見ている方角は北東だから、まず方角が違う。この方角で1000mを越える山としては50kmほど離れているが粟ヶ岳(1292.7m)というのがある。それから粟ヶ岳の南20kmほどのところに、守門岳(1537.3m)があり、こちらは東北東に40kmほどの距離がある。実は主人公がこの眺望を目にしたとき、既に九月十日頃なのだが(117頁)、それでも「頭に白いものをすこしのせている紫色の山」というのであるから、守門岳の方であろうか。東方やや北に45kmほど離れた浅草岳(1585.5m)の可能性もあろう*1。地元の人には分かることなのだろうが、地図を見て見当を付けているだけなので甚だ心許ない。
 そこで、現地の写真でも上がっていないかと検索してみると「長岡の迷所」というサイトに、「法末 万里の長城」というページがあった。前回、裏山の候補地として挙げた辺りらしい*2。主人公が見た景色は、このページの写真*3と同様のものと考えて良いように思う。また、「新潟からの山旅」というサイトの「向山、峠山、三ッ扇山、船岡山」に、自動車で小千谷から道見峠を越えて法末集落に入り、徒歩で向山に登ったことが記述されている。
 「反対の左手の方」は、西である。「右手」が東だから、主人公は南から北へ登って裏山の頂に到達したことになる。これは前回述べた、麻生家が集落の北端に位置するという推測を補強するものとなろう。
 西の「S――川よりも細い川」は、長岡市小国町を縦貫して流れる渋海川であろう。「治作のいう黒姫という山」は西南西に15kmほど離れた、柏崎市黒姫山(891m)であろう。こちらは「八海銀山」と違って、主人公も認めるように予備知識がないので、見えているのに「見当がつかな」かった可能性が高い。
 それはともかく、「吉谷村の二股」から「左」に進んだのでは小千谷市真人町に入ってしまうが、真人町の集落(第一の候補は市之沢集落)からでは、かなり登らないと小国町方面が見えるところ、すなわち黒姫山まで見渡せる、信濃川と渋海川との分水嶺まで辿り着けない。やはり「吉谷村の二股」を「右」に進んで、分水嶺まで「ちょっとした丘に毛のはえたぐらいの高さ」と言える集落でないと、「法木作村」の候補とはなり得ないと思う。

*1:ちなみに、北東に「八海山」という山もある(小千谷市稗生)のだが、標高306mしかなく「夏も雪がある」ような山ではないし、こんな山を咄嗟に余所者の主人公が思いつくはずもないから、除外して置く。

*2:集落の北側に連なる山、ということで北方騎馬民族への備えに喩えてこのように呼んでいるのか。

*3:展望版の写真は拡大できる。これにより主要な山の方角が分かる。