瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

小池壮彦『怪談 FINAL EDITION』(9)

 昨日の続きで、第十話「侑子」の続き。
 『幽霊物件案内』と『怪談』は怪異現象など展開もほぼ同じで、引きこもりになって骨と皮に変貌したユウコに会った人物が知人本人なのかどうか、それからさらにその後、東電OL殺人事件後に小池氏がユウコに会ったかどうか、の2点が食い違っている。
 四谷怪談は、前者については『怪談』に、後者については『幽霊物件案内』に一致する。しかし、話の展開は大きく異なり、ユウコは死んだことになっている。
 『四谷怪談』ではユウコの体験談は、6月21日付(7)の引用が全てで、残りは殆ど6月19日付(5)で見た知人男性、161頁3行め「最後に彼女に会った人の話」なのである。161頁1〜4行め、

 その後に私はもう一度証言を引き出そうと思って連絡したが、優子とは二度とコンタクトが/とれなかった。以前から拒食症の気があったらしいが、急速に痩せ細り、餓死同然の状態で亡/くなったという。最後に彼女にあった人の話によると、幽霊の出たホテルに泊まった彼女の友/人が理由もなく焼身自殺したので落ち込んでいたらしい。

 『幽霊物件案内』『怪談』では小池氏がユウコにもう一度会おうと思ったのは東電OL殺人事件に触発されて、ということになっていたが、『四谷怪談』は6月20日付(6)で見たように、ユウコの一件を全て書き終えてから東電OL殺人事件の話題に移っている。それはともかく、『四谷怪談』では、シミを気にしたとか鏡を見るのを怖がったとか、そういうことにはなっていなくて、ユウコを追い詰めたのは友人の自殺ということになっているのである。161頁10〜16行め、

 宮田氏の話では、優子の友達はホテルの幽霊話を聞いて興味を持ち、泊まりにいったそうで/ある。その後に人が変わったようになり、ある日突然自殺した。
 ホテルで幽霊を見たからだと優子は言っていたらしい。だが、それだけのことで自殺したり/するだろうか。真相は宮田氏にもよくわからないという。
「……ただ、自分の顔ではなくなったと。それであんなことに」
 優子の友達は、ガスコンロにしがみつくような恰好で死んでいた。頭部がぼろぼろに焼け崩/れていた。信じがたいことだが、自分の顔を炎にさらして焼き落とした。


 すなわち、『幽霊物件案内』と『怪談』の、自分の顔を気にしていた、という要素もユウコではなくて、友人のことになっているのである。(以下続稿)