瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

事故車の怪(3)

 昨日の続きで、今回から、10年以上前の文献から例を拾って行くこととする。
 2013年4月10日付「小池壮彦『幽霊物件案内』(1)」に取り上げた平成13年(2001)刊行『幽霊物件案内2』157〜181頁、第八章「車、その他/乗ってはいけない 」の前半(159〜170頁14行め)は、この手の話の紹介と解説に当てられている。――初めに断って置くと、実話ではない生首の話には深入りしていない。
 159〜160頁12行め、1話め「ガソリンスタンドの女」は、「知り合いのU氏」が「世田谷区のガソリンスタンド」の「敷地のはし」に「止まってい」る「事故車」の「シルバー」の「セルシオ」に出没する「白いワンピース姿」の「変な人」について語ったもので、由来は不明ながら事故車の幽霊(?)の目撃例である。
 160頁12行め〜162頁2行め、2話め「呪いのセルシオ」は、「車種はセルシオ、年式は平成三年、色はシルバー」の「外装・内装ともに、とりたてて不都合」のない車が「諸費用込みで」「二十一万円」と云う「格安で売られていた」のを買った「シゲタ君」が「恋人とドライブに出かけた」先の「伊豆の白浜」の「海辺の駐車場」で、「サイドブレーキを引いたはずの車が、いつのまにか動き出し」シゲタ君は「間一髪で難を逃れた」が、恋人が「車と塀の間にはさまれて」死亡する。そのときシゲタ君は「ひとりでに動き出した車の運転席」と「助手席」に、笑う男女の姿を見たと云うのである。これは事故車かどうか分からないが「格安」の中古車である。語り手はシゲタ君と「学生時代の友人だった」と云う「A氏」で、オチは「……その車、いまもオークションにかかってるって話です」との一言。
 そして162頁3行め〜166頁5行め(164〜165頁は見開き写真)、3話めが「呪いのソアラ」で、冒頭、162頁4〜6行め、

 呪われた車が、安く売られている――。
 この手の話は、一九八〇年代にソアラにまつわる逸話が流布して以来、都市伝説化した。いまでも/<自動車怪談〉の定番として、似た話が語りつがれている。

と語り始めるが、7〜11行め、

 前著『幽霊物件案内』では、およそ二十年前に、私が担ぎこまれた外科病院にまつわる怪異の話を/書いた。実はそのときに、私を事故に巻きこんだ車もソアラであった。
 恥ずかしい思い出なので、前著では書かなかったが、いまさら隠すことでもないので少々打ち明け/てみると、問題のソアラは知人のタンゲが購入したもので、新車であった。当時のソアラは、発売前/から注目されていた人気の車種だったから、みんなタンゲの車に乗りたがった。

と、ソアラが発売された、昭和56年(1981)頃のことと思しき事故について語られる。この事故については、2013年2月26日付「小池壮彦『東京近郊怪奇スポット』(1)」に取り上げた小池氏の処女作、平成8年(1996)刊『東京近郊怪奇スポット』に述べてあったと思うのだが、借りようと思って所蔵する図書館を訪ねたところ、見当たらない。OPACで検索してもヒットしなかった。3年前の2月に借りて3月に返却しているから、その後、除籍処分となったらしい。外科病院にまつわる怪異の話は、163頁13行めにあるように「デンマさんのドロップ」で平成12年(2000)刊『幽霊物件案内』143〜164頁、第四章「病院/患ってはいけない 」の5話め、159頁13行め〜164頁に掲載されている。これも『東京近郊怪奇スポット』にごく簡略に述べてあったと思うのだが、俄に確認出来ない*1
 それはともかく、小池氏は「友人のヨシナガ」に誘われて「知人のタンゲ」のソアラに乗ることになるのだが、事故の場面は省略して、1行空白を挟んでの結末部を抜いて置こう。163頁14行め〜166頁5行め、

 ソアラが事故を起こした原因は、いまもはっきりしていない。当時は、タンゲの運転ミスというこ/とで片づけられたが、小学校の壁をめがけて、特攻隊よろしく突っこむミスなど考えられない。
 なぜそんなことになったのかを知るのは、運転していたタンゲのみであるが、彼は警察で事情を聞/かれて、次のように語ったと言われている。【163】
 「座席の下から手が伸びて、ハンドルをつかんだ。女がうずくまって笑っていた。コントロールがき/かず、必死でブレーキを踏んだが間に合わなかった。女はいつのまにか消えていた」
 車の座席の下から手が伸びるという話は、いまでは都市伝説化しているが、当時そのような事件が/実際にあったのである。ともあれ、大破したソアラは廃車になった。しかし一説に、修理して売られ/たとも聞く。新車だったわけだし、いつ女の霊がとりついたのかは謎である。


 どうも「次のように語ったと言われている」と云う書き方が気になる。タンゲに直接事情を聞く機会がなかったのだとしても、誰から聞いたにせよ知人の発言を「言われている」などと余所余所しく書くのは何だか奇妙である。それから「しかし一説に」と云うのも、知人や友人の間で起こった「事件」の割には妙なボカし方である。しかし「実際にあったのである」のところは断定だ。――どうも書き方が妙だし、それで「実際にあった」と云われても俄に信じがたいのだが、仮に本当だとしたら「呪いのソアラ」の「新車」で、その後「事故車」の「中古車」として怪異を振りまく起点となった、と云うことになりそうだ。(以下続稿)

*1:2018年5月4日追記】『東京近郊怪奇スポット』の記述は2018年5月4日付(10)に確認した。事故は昭和57年(1982)夏で、記述はごく簡略である。病院の怪異についての記述は『幽霊物件案内』とはかなり異なっている。