瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

事故車の怪(11)

・日本の現代伝説『ピアスの白い糸』(2)
 5月3日付(09)の続きで、5月4日付(10)からしばらく、ソアラ発売の翌年の怪異に話が逸れてしまったが、群馬県ソアラに話を戻すこととしよう。
 このシリーズは節ごとに編者が分担しており、1節めの担当は常光徹
 11頁(頁付なし)は灰色地で、上部中央に右後方を向いた猫のカットと縦組みで「Ⅰ 車社会」。裏の12頁(頁付なし)は中央下寄りに灰色地(10.6×8.3cm)に、明朝体縦組みで章の内容に関する11行(1行27字)のコメントがあって12行めは下寄せで「(常光 徹) 」と担当者名。
 以下、既に述べたように10節に分かれており、まづ1節めは13頁1行め、ゴシック体太字で節の題にもなっている例話「見るんじゃねぇ!」が紹介される。題の上(0.8cm)と右(14.5cm)は鍵型の細線で区切られ、話とそれに続く〔出所〕の上には太い横線(幅0.2cm)があって、続く常光氏のコメントに比して2字下げになっている。話とコメントの間には「◆」を白の「×」で分割したマークが22字下げで打たれている。
 14頁1行め「〔類話1〕見るな!」はゴシック体で鍵型の仕切りはなく、話の引用及び〔出所〕の上の太い横線(0.1cm)はやや細くなる。話とコメントの間のマークは同じ。〔類話〕の題は目次にも示されている。
 9節めの例話は、47頁4行め「五万円のソアラ」と云う題で、48頁1〜2行め「〔出所〕群馬県出身の二十代の男性が、一九九二年八月に十数人の仲間で開いた百物語の会で話/した。(渡辺節子編「私たちの百物語」一九九二年十月)」とある。
 話(47頁5〜15行め)は「群馬にあるうわさ話で、若い人のあいだにはやっているんですけれども」と前置きされており、5月3日付(09)の常光氏の分類ではAに該当する。――「暴走族」が「警察の車に追っかけられ」て、同乗の「仲間が窓から体をのりだして、ハコノリで逃げた時に看板に頭をぶつけて首が取れちゃった」という事故があり、以後「それを買った次のオーナーも同じような事故で死んでしまう」。同乗者ではなく「運転手」が「事故を起こして首が取れてしまう」らしい。
 その車が「けっこう高級車で、若い人でもそれに乗ってればかなりステータスがあるという車」であるソアラで、群馬県の「高崎とか」の「国道一八号線」沿線に「ずいぶんある」中古車販売店に「ソアラが五万円で売られていたっていう」のである。
 続くコメント(48頁4〜13行め)で常光氏は、10〜11行め「‥‥、乗り合わせた誰かが首を失うという/から怖い。‥‥」と述べているが、「運転手は‥‥首が取れてしまう」或いは「次のオーナーも‥‥死んでしまう」と云うのであるから、切っ掛けになった事故で死んだのは同乗者だが、その後の事故で死ぬのはオーナーである運転手のはずである。
 続いて11〜13行め「‥‥。同乗者の一人がサンルーフから頭をだしている/のを気づかずに車庫入れをしたため、天井に挟まれて首が切れてしまったというヴァージョンも知ら/れている。」と述べているが、これについては(場所は群馬県なのだろうけれども)時期などを示していない。
 48頁14行め「〔類話1〕助手席の窓」は、出所は49頁4行め「(東京の専門学校の男子学生が、一九八七年に報告した。大島広志記録)」で、怪異は5月3日付(09)の常光氏の分類ではBで「夜その車を運転すると、助手席の窓に彼女の血だらけの首がうつるという」のであるが、切っ掛けの事故は「持ち主が彼女とドライブをしている時、細い道でたまたま彼女が窓から頭をだしていた」ところ「何かにぶつかって彼女の首が取れてしまったという」のである。そしてその「事故車」の「ソアラ」を「群馬のほうの中古車センターで、九万円で‥‥売っているという」のである。――「二、三か月ぐらい前」に「友人と話していた」折に、こん「九万円のソアラの話がでてき」たと云うのだから、報告時期が何月かまで分かれば、発生時期を推測させる手懸かりとなるのだけれども。
 49頁16行め「〔類話2〕そこはわたしの席です」は、2017年1月2日付(02)に取り上げた、松谷みよ子『現代民話考』の「中古車の怪」の例話となっている、仮に①の番号を附した北彰介 編『青森県の怪談』に載る「青森市」の「昭和三十三年」の話で、常光氏は「早い時期の報告の一つといってよい」とコメントしているが、同じ「時期の報告」がもっとあるなら、ダブりではなくそっちの方を出して欲しい。しかしながらこの話は確かに使い回したくなるくらい、「早い時期」にして既に典型となっていて、2017年10月26日付(05)に引いた、常光氏が『みたい! しりたい! しらべたい! 日本の都市伝説絵図鑑』に取り上げた話もやはりこの『青森県の怪談』の話なのである。但し『図鑑』では『青森県の怪談』に指定のなかった「高級車」と云うことにしてある。……昭和33年(1958)当時の乗用車は、非常に高価だったろうと思うのだけれども。
 それはともかくとして、昭和62年(1987)以降、群馬県で噂になった事故車のソアラは、首が問題になっている点で、5月2日付(08)に論じた、昭和46年(1971)頃に青森県で流行った事故車の怪談に通じるものがあるが、しかしやはり生首がボンネットに載ると云う突飛さには及ばないように思う。しかし、今野氏の記録も、誰の生首なのか、どうも、事故被害者の生首らしく読めるのだけれども――分かりにくいので、もう少し詳しい情報――当時の新聞記事を見付けたいものである。(以下続稿)