瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

小池壮彦『怪談 FINAL EDITION』(16)

・第十七話孤独死(6)
 昨日の続きで、「読売新聞」2004年(平成16年)6月10日(木曜日)付朝刊の記事から、近所の人の証言を抜いて置こう。8段めの最後、10〜17行め、

/‥‥。付近に住む男性会社/員(65)は「アパートの存在/は気にも留めていなかっ/た。ニュースを聞いて、『あ/あ、こんなところにあった/んだなあ』と思った。ここだ/け時間が止まっているよう/だ」と話していた。


 それでは2月14日付(13)に引いた、小池氏が引用している「近所の男性会社員の話」はどこから出て来たのだろうか。
 私はまづ、縮刷版に収録されている「14版」、すなわち、それまでに13版を重ねた末の東京本社版の最終版よりも、前の版に出ていたのではないか、と考えた。小池氏は怪異を排除した、この証言に差し替えられる前の、初期の版を目にしたのではないか、と。――女子高で小論文演習を担当していたとき、生徒たちが時事問題に疎く、家で新聞を取っていても読んでいない、と言うので、毎日新聞を一通り眺めて気になった記事を切り抜いてノートに貼り、その要約と、序論・本論・結論の3段構成で感想を書く、と云う課題を毎週課したことがあった。あの頃は充実していたなぁ。授業のたびごとに分厚くなるノートを抱えて講師室に持ち帰り、土曜の午後に他に誰もいない講師室で、校舎内にも殆ど人気がないのだけれども、急須で淹れた茶を飲みながら、赤ボールペンで添削したり、生徒の感想に、さらに興味を広げたり別の視点でも考えたりするよう促すコメントをせっせと書き入れたりして、本当に楽しかった。時には同僚の自転車を借りて、近所の図書館に関係する資料を探しに行って……。そのとき「朝日新聞」だったと思うが、同じ記事の切り抜きで、本文は一致するが割り付けの異なるものがあって、同じ面の別の記事に差し替えがあってレイアウトが変更されたと云うことなのだろうけれども、新聞を資料として扱う場合、厳密に云うと何版に出ていたか、そこまで注意すべきなのだと思い知らされたことがあった*1。しかしこの新聞ノートも、次第に新聞を家で取っていない生徒が増えて、私が担当を外れる頃には止めてしまった。
 それはともかく、「縮刷版」よりも以前の版を確認出来るかどうか、手段があるにしてもこんなことのためにそこまでするのか(笑)と云う気がするが、念のため、ネット検索してみたところ、あっさりと「縮刷版」以前の読売新聞の記事がヒットしたのである。平成初年のことは殆どヒットしないが、平成も半ばになればまだネットに痕跡が残っているのである。
 すなわち、2chスレッド「【社会】「気付かれないまま」約20年前の白骨遺体、解体アパートで発見−東京」には、2004年6月9日23時5分にスレッドを立てた「1」が時事通信配信の記事を引用している*2。そして2004年6月9日23時15分に書き込まれた「36」が、別の記事から「1」の記事を補うような内容を引用しているのだが、その最後に、

近所の男性会社員(38)は/「ここ20年くらい人気がなかったかと思えば、/3年くらい前には急に部屋に明かりがついたりして、/不気味な建物だった。こんなところで、長い間、/遺体に気づかなかったとは」と話していた。

とある。同じスレッドを進むと、2004年6月10日0時19分に書き込まれた「196」が、「36」の記事の全文を示していた*3

病死20年、不気味な廃屋アパートに白骨遺体…池袋

 東京・池袋の住宅地にある廃屋の木造アパートを取り壊そうと立ち入った業者が/今月1日、男性の白骨遺体を見つけた。台所のテーブルには1984年(昭和59年)/2月20日付の新聞の朝刊が置かれていた。/警視庁池袋署では、男性は病死したとみているが、遺体は20年間、誰にも気づかれなかった。

 調べによると、遺体が発見されたのは1日午前11時40分ごろ。/2階建て木造アパート「ベルメゾン2号棟」(豊島区池袋4)を取り壊すため、業者が/2階の203号室に入ったところ、4畳半の畳の部屋で、布団に横たわる遺体を発見した。/部屋は施錠されたままで、室内に荒らされた形跡はなく、検視の結果、遺体には外傷の跡/などはなかった。

 同署では、部屋に身元を示す書類があったことなどから、遺体はこの部屋に住んでいた/1927年生まれの建設会社の社員と断定。遺骨はすでに関東地方に住む親族に渡された。

 アパートが建てられたのは1972年。管理していた会社が20年前に倒産し、その後は/廃屋となっていた。

 現場は、山手通りと川越街道の交差点近い、一戸建てやアパートが混在している地域。/近所の男性会社員(38)は「ここ20年くらい人気がなかったかと思えば、3年くらい前には/急に部屋に明かりがついたりして、不気味な建物だった。こんなところで、長い間、遺体に/気づかなかったとは」と話していた。(読売新聞)


 末尾に(読売新聞)とあるが、これは翌朝の「読売新聞」に出た記事よりも簡略である。先行してネット配信されたものであろう。差し替えたタイミングは分からないが、この「不気味」な証言をネットで配信して話題になったのを見て、刷らない方が良いと判断したのであろうか。それはともかく、どうも、冒頭の一文の、前回注意した「廃屋の」が一致するところから見るに、小池氏が依拠したのはこのネット配信された(読売新聞)のニュースで、小池氏はこれがそのまま紙面に出たと思って、紙面の方は確認しなかったのであろう。しかしそれなら「新聞を見てビックリした」と書いてはいけないと思う。要するに「六月一日」に出たように書いてしまったのも、実際の紙面を確認していないため、記事をコピペした際に日付が曖昧になってしまっていたからであろう。
 そこで次回、実際に印刷された14版、「読売新聞縮刷版」に出ている記事の内容を見て置くことにする。(以下続稿)

*1:推理小説に使えるかも知れない。或いは、もう存在しているか?

*2:もちろん出典へのリンクは切れている。

*3:「36」は後半、「同署では、‥‥」以下の3段落を引用していた。