・野村芳太郎監督『砂の器』(3)作中の映画
6月2日付(2)の記事に、いろいろと見間違いがあったので、伊勢の映画館ひかり座の場面を見直した。
今西警部補(丹波哲郎)がいったんひかり座を出る場面、入口右手に「上映中」の看板があり、その右半分は「海は/ふりむかない」のポスター(恐らくB2判)を2種類上下に並べて張り、左半分は「明日/また生きる」のポスター(B2判の上下2枚続き)、前者の上の1枚は上部に若い男女を大きく示し、後者は下部にやはり若い男女を大きく示しており、ともに恋愛映画らしい。そして後者の右下部に「上映中*1」と縦書きに書いた淡い桃色の紙を貼付している。
・斎藤耕一監督『海はふりむかない』 昭和44年(1969)9月17日公開
・河辺和夫監督『明日また生きる』 昭和45年(1970)5月27日公開
主演は栗原小巻(1945.3.14生)と田中邦衛(1932.11.23生)。このB2判2枚続きのポスターは画像検索でもヒットしない。
なお、『海はふりむかない』『明日また生きる』とも松竹配給の、悲恋映画である。
その前に、館内で映画のワンシーンが写されるのだが、どうやら『海はふりむかない』でも『明日また生きる』でもないらしいのである。――「みなと祭」の提灯の下がる漁港近くの道を若い短髪の、浴衣の女性が白い団扇を手に駆けて行く場面*2で、これまで誰かと云うことを気にしていなかったのだが、水前寺清子らしいと思って「砂の器 水前寺清子」で検索して見ると、既に気付いている人がいて、ミー坊(1964生)のブログ「ミー坊のブログ」の2016-12-07「12/4/2016「砂の器」TOHOシネマズ新宿にて」に、「デジタルリマスター2005 砂の器」劇場公開時に気付いた人のいたことが見えている。
水前寺清子(1945.10.9生)は『海はふりむかない』にも『明日また生きる』にも出演していない。もう少し手懸かりはないかと再見するに、――初めの方に写る長い提灯に「清水みなと祭」と書いてある。そうするとこれは、入口で「上映中」となっていた『海はふりむかない』でも『明日また生きる』でもなく、次の映画らしい。
・野村芳太郎監督『三度笠だよ人生は』 昭和45年(1970)7月25日公開
- アーティスト:水前寺清子
- 出版社/メーカー: クラウン
- メディア: LP Record
失恋の相手は石坂浩二(1941.6.20生)。なお森田健作(1949.12.16生)が主人公の弟役で出演している。
この映画が上映されているスクリーンの右側、上手側の壁にB2判2枚続きの次の映画のポスターが、薄い桃色の紙片「次週公開」とともに貼ってある。
・野村芳太郎監督『やるぞみておれ為五郎』 昭和46年(1971)1月15日公開
作中に登場する映画の中ではこれが一番新しい。ちょうど地方の映画館に廻ってくる頃合い(昭和46年9月頃か)であったろうか。
このポスターは、画像検索でヒットする。――ハナ肇(1930.2.9〜1993.9.10)のギャグ「アッと驚く為五郎」が受けたことで作られた全5作のシリーズの第2作。
この齟齬は、ひかり座の入口が現地でのロケで*3、ひかり座の中は大船撮影所のセットでの撮影だったことに拠るのだろうか。――撮影当時、まさか現在のように自宅で決まった場面を繰り返し再生して見られるようなことになるとは思わなかったので、入口のポスターをわざわざ『三度笠だよ人生は』に張り替えるところまで、手配しなかった、と云うことであろうか。
なお、ひかり座支配人(渥美清)によって6月20日まで上映されていた、とされる2本立て『男の街』と『利根の朝霧』だが、前者は存在しないようだ。後者は野村芳太郎監督の父・野村芳亭(1880.11.13〜1934.8.23)の最晩年の監督作品で昭和9年(1934)8月1日公開の同名の映画があるが、昭和46年(1971)に地方都市の映画館で上映したかどうか。
そして6月21日から上映された、とされる2本立て、『北海の嵐』と『大江戸の鬼』だが、これも前者は存在しないらしい。後者は昭和22年(1947)5月6日公開の新東宝映画が存在し、長谷川一夫・高峰秀子・大河内傳次郎が出演している。
原作では第十二章「混迷」の「4」節から第十三章「糸」の「1」節にこの映画館の件があるが、三木謙一は2日同じ映画を見たことになっており、その2本立ては時代劇『利根の風雲』と現代劇『男の爆発』で、ともに架空の映画である。
映画では4本見たことになっており、原作の「男の」と「利根の」を借りて発想されているようだが『男の街』は『北海の嵐』とともに架空の映画らしいのに、『利根の朝霧』は『大江戸の鬼』とともに実在の映画である。いや、実在の映画の名前を借りることで、それらしく感じさせる効果を狙ったように思われるのだけれども。(以下続稿)
【2019年11月28日追記】ひかり座の中で上映されている映画が『三度笠だよ人生は』であることは、娯楽映画研究家佐藤利明(1963.8.9生)の2011年1月27日 9:15 の tweet に指摘されていた。しかし入口の掲示との齟齬は指摘されていない(らしい)のでこの記事はそのままにして置く。それからポスターを貼付して置く。[asin:B07D22GCKQ:detail]
【2019年11月29日追記】久し振りに検索して見るに、入口に掲示されている『明日また生きる』の二枚続きのポスターが、現在ヤフオク!に出品されている。なお、下半分の栗原氏の顔は下に貼付した Amazon に出品されていた一枚物のポスターに同じだが、二枚続きの下半分では栗原氏の右後方にいた田中氏は排除(?)されている。
[asin:B07D229TN2:detail]
[asin:B07NTX5SHC:detail]
ついでに『やるぞみておれ為五郎』のポスターも(劇場内に張ってあった二枚続きではなく一枚物だが)貼付して置こう。【2020年2月8日追記】『海はふりむかない』の、入口に掲示されているB2判一枚物のポスターが、貼付出来るようになっていた。 ついでに西郷輝彦の主題曲のレコードも貼付して置こう。
- アーティスト:西郷輝彦
- 出版社/メーカー: クラウン
- メディア: LP Record
- アーティスト:西郷輝彦
- 出版社/メーカー: クラウン
- メディア: LP Record
*1:この上に赤で横並びに何か書いてあるが読めない。
*2:最後に繋留されている漁船と沖合で上がる花火が写る。
*3:ひかり座については、「東京紅團」の「●松本清張の「砂の器」を歩く (伊勢、大阪編)」に地図と跡地の写真が掲載されている。