・末広昌雄「雪の夜の伝説」(16)
昨日の続きで、末広氏が依拠したと思しき佐々木喜善『東奥異聞』の「嫁子ネズミの話」の「一」節め、4段落めの残りを抜いて置きましょう。
‥‥。女人はひどく喜んでスカリに向かっていうには、おおよく聴けよ。われこそはただの人間ではありません。じつは山神さんでありまするぞよ。今夜のお世話のお礼には明朝三つクマをえさせましょう。夜が明けたならこの下の洞に尋ねいってみなさい。大きなタカスのうちに三匹の大グマがいよう、それを射つにはかくかくせよと教え、また前に情けなく私に当たったかの七人組の小屋にもいってみておくれ、私の怒りが彼らをなんとしておくか、といわれたと思うと、その山神さんの女人はどことなしに立ち去りました。
「スカリ」は12月13日付(79)に引いた中にあったように「組頭」の意で、「タカス」については既に12月12日付(78)に見たように、最後の段落に「山言葉」の説明が纏めてなされた中に見えています。
昭和31年(1956)の「山と高原」二月号(第二三三号)掲載「雪の夜の伝説」の「狩山の鼠」の該当箇所、56頁3段め10行め〜4段め5行めは、
‥‥。女は大層喜んでその/組頭に向い、「我こそは唯の人間でなく、/実は山神であるが、今夜のお礼には明朝三/つ熊を得させてやる。夜が明けたら此の下/の洞を尋ねて行け、そこには大きなタカス/(風損木の空洞)の中に三匹の大熊が居よ/う。それを射つにはかくかくせよ。又、前【3段め】に私に情無くしたかの七人組の小屋へも/行って見るが好い。私の怒りが彼等を何/としておくか」と云ったと思うと、その/山神の女は吹雪の戸外に何処ともなく立/ち去った。‥‥
となっていて、太字にした箇所には傍点「ヽ」が打ってあるのですが再現出来ないので仮に太字で示しました。――山神の台詞を簡略化した他、やはり天候について「吹雪の戸外に」と殊更に書き足しているのが注意されます。それから1行の字数が3段めが19字で4段めが18字なのですが、同じ56頁で勘定して見るに1段めは18字、2段めは19字でした。
次に、平成4年(1992)の「あしなか」第弐百弐拾四輯掲載「山の伝説」の「山の神の伝説」の、7段落め(17頁上段3〜13行め)を抜いて見ます。
女は非常に喜んでその/組頭に向かい、「われ/こそは、ただの人間ではなく、実は山の神で/ある。今夜のお礼に、明朝三つ熊を得させて/やる。夜が明けたら、この下の洞を尋ねて行/け。そこには大きなタカス(風損木の空洞)の中/に三匹の大熊が居よう。それを射つには、か/くかくせよ。また、前に私に情無くしたかの/七人組の小屋へも行って見るがよい。私の怒/りが、彼らを何としておくか」と、言ったかと/思うと、その山の神の女は吹雪の戸外に何処/ともなく立ち去って行った。
「山と高原」との異同を仮に太字にして見ましたが、細かく手を入れていることが分かります。(以下続稿)