瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(03)

 私が初めて「木曾の旅人」を読んだのは、その後浪人時代に予備校の近くの図書館で『岡本綺堂読物選集』全8巻の「④異妖編 上巻」(昭和44年5月20日発行・定価八五〇円・456頁)を手にして、であった。版元は青蛙房岡本綺堂の養嗣子岡本経一の経営である。
 岡本経一の「あとがき」によると「④異妖編 上巻」は、春陽堂版『綺堂読物集』第二巻「青蛙堂鬼談」(大正15年3月)と第三巻「近代異妖編」(同年10月)を合わせたもの、『青蛙堂鬼談』は小石川の青蛙堂での怪談会という設定だが、柴田宵曲によればChina怪異小説に取材した翻案小説集とのこと、『近代異妖編』はその続編で『青蛙堂鬼談』の当日に出た話の拾遺、という位置づけになっているが、こちらはChina種の翻案ではないらしい。岡本経一は『近代異妖編』に「出所の判らないものが四つある」とする。「④異妖編 上巻」は各編の文末に出所を明示するが、これがないのは「馬来俳優の死」「停車場の少女」「木曾の旅人」「河鹿」「百物語」の五つ。但し和井府清十郎(綺堂事物店主)の驚嘆すべきHP「綺堂事物」の「綺堂ワークス/『岡本綺堂作品の未確認リスト』」を見ると、どうもこの「出所」には色々問題があるらしい。
 それはともかく、「その中の一つを採り上げてみる」として、岡本経一は次のように述べている。

 明治三十年代の文芸倶楽部に彼は「木曽のえてもの」という随筆をかいている。「明治二十四年三月、父に従って軽井沢に赴く」と年譜にある、その時に木曽の杣から聞いた話である。大正二年三月発行(鈴木書店)の「飛騨の怪談」はその小説化であろう。この本はスリラー物語集である。大正十年三月発行(隆文館)の「子供役者の死」にも「木曽の怪談」として載せている。近代異妖編所載のものは更にその改訂である。晩年の昭和十一年三月、これを「影」として戯曲化したが、戦後の二十二年十月、六代目菊五郎花柳章太郎の顔合せに初めて上演された。一つの作品にも五十年の歴史があることになる。


 この『岡本綺堂読物選集』には、それぞれの作品の題の下に、三井永一によるカットがあるが、「木曽の旅人」には旅籠の入口にあるような行灯が描かれている。が、この「旅人」はそういう旅人ではない。題だけ見て木曽街道(中山道)の旅を連想して描いたのであろうか。

 岡本氏が挙げている文献のうち、「木曽のえてもの」と「飛騨の怪談」と「影」は岡本綺堂東雅夫 編『飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選』(二〇〇八年三月五日初版第一刷発行・定価2300円・メディアファクトリー・317頁)に集録されて簡単に読めるようになった。そして、この岡本氏の記述にかなり問題があることが明らかとなっている。ただ、『子供役者の死』の「木曽の怪談」については今のところ、新たな言及を見ないようである。
『子供役者の死』は、全古書連のHP「日本の古本屋」では1冊ヒットする。その気になれば入手可能である。HP「綺堂事物」の「綺堂ワークス/『岡本綺堂全著作リストの補訂版』」にも409番に記載されている。但し国会図書館はじめ、都内の図書館には所蔵がないようである。
 なお、「綺堂ワークス/綺堂の出版作品」を見ると、「木曾の旅人」は「恐怖の研究」の設定がそうであるように、怪異小説の傑作集にたびたび採用されているが、その中でも最も古いのは、

怪談 小泉八雲等著 講談社 1972 ( 少年少女講談社文庫 )
  /木曽の旅人


である。現物を確認する必要があるかも知れない。