瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(61)

岡本綺堂「影」(5)
 昨日の続きで、幽Classics『飛驒の怪談』の「編者解説」から、戯曲「影」について述べた箇所の後半を見て置きましょう。314頁11行め〜315頁2行め、

 芸妓おつやが、旅人の妖変に気づくあたりの暗示的な演出はまことに巧みで、舞台上になんら具体/的な怪異が登場しないにもかかわらず、一読、肌に粟を生ぜしめるが如き鬼気を漂わせている。枯淡/の境地と申すべきか。
 なお、綺堂は本篇のほかにも怪談戯曲を折にふれ手かげており、先述の『伝奇ノ匣2 岡本綺堂 /妖術伝奇集』に「平家蟹」「蟹萬寺縁起」「人狼」「青蛙神」の四篇が収録されている。いずれも面白/く読めるが、ことに英国作家W・W・ジェイコブスの名作怪談「猿の手」を下敷きにしたとおぼしい「青【314】蛙神」は、薄気味の悪い訪客というモチーフの点で「影」や「木曾の旅人」と一脈通じるものがあり、/機会があればぜひ読み較べてみていただきたいと思う。


 怪談戯曲の諸作については、これら4篇を収録している学研M文庫 伝奇ノ匣2『岡本綺堂 妖術伝奇集』の解説、815頁7行め〜817頁12行めにやや詳しく述べてありますが「木曾の旅人」についても、その最後、817頁10〜12行めに、

‥‥。また「猿の手」に/優るとも劣らない完成度を誇る名作怪談「木曽の旅人」は、戯曲版「青蛙神」における/「無気味な来訪者」というモチーフのバリエーションとして読むことが可能なのである。

と言及されていました。――東氏が岡本氏の怪談戯曲を取り上げたのはその最初、815頁7〜9行め、

 しかしながら、綺堂のホラー短篇が何度となく文庫化され、息永く愛読されているのに/ひきかえ、綺堂が本領としたジャンルであり、また海外ホラーの影響がより直截に認めら/れもする一連の戯曲作品が、これまで等閑視されてきたことは残念でならない。*1

と云う理由からで、続く815頁10〜9行めに、

 そこで本巻には、新歌舞伎の名作「修善寺物語」や「鳥辺山心中」などの陰に隠れて注/目されること少ない、綺堂の怪奇幻想戯曲四篇を収載することにした。特に「人狼」と/「青蛙神」は、雑誌掲載のまま今日まで埋もれていた、ホラー戯曲の逸品である。

とあって「雑誌掲載のまま今日まで埋もれていた」2篇は昭和6年(1931)の「舞台」誌から発掘されています。
 してみると、東氏は『岡本綺堂 妖術伝奇集』編纂に際して、5年後に同じ「舞台」誌に「掲載のまま」埋もれていた「影」も読んだのではないか、そして、読んだ上で採らなかったのではないか、と、そんなことを思ってしまうのです。(以下続稿)

*1:ルビ「/ちよくせつ/とうかんし」。