瑣事加減

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松本清張『岸田劉生晩景』(3)

新潮文庫3021
 針生一郎が執筆している新潮文庫3021『岸田劉生晩景』の「解説」であるが、10月21日付「松本清張『小説日本芸譚』(1)」に「可笑しなことを書いている」と書いて置いたように、妙な勘違いをしている。すなわち、234頁9〜14行めに、

岸田劉生晩景」は、一九六五(昭和四十)年『芸術新潮』に発表されたが、「鳥羽僧正」「北/斎」の二篇は一九五六(昭和三十一)年の同誌に発表された。歴史上著名な美術家像を、綿密/な調査に自由な想像を加えて再構成した松本清張の『小説日本芸譚』が、一九五七(昭和三十二)年『芸術新潮』に連載されて単行本になったことを思いあわせると、この三編はその/序曲と続編とみることも出来る。『小説日本芸譚』の「後記」にあるつぎのような述懐は、/これらの作品にもあてはまるだろう。「調べてみて、大体の輪廓はわかっても、……

とあるのだが、10月21日付に引用した、新潮文庫1476『小説日本芸譚』三十五刷改版に新たに加えられた前田恭二「社会の力学のなかの芸術家たち」にもあるように、昭和31年(1956)「芸術新潮」連載の「日本芸譚」12篇のうち「鳥羽僧正」と「葛飾北斎」の2篇が、昭和32年(1957)刊行の単行本『小説日本芸譚』に採られず、昭和36年(1961)の新潮文庫もこれを踏襲して単行本未収録となっていたのを昭和55年(1980)刊行の『岸田劉生晩景』の単行本に、初めて再録したのである。それだのに針生氏は、雑誌連載と単行本化の間の時差を考慮せずに「序曲」などと可笑しなことを書いている。「これらの作品にもあてはまるだろう」と言っているが、同じ連載から単行本化に際して省かれた2篇に「あてはまる」のは当り前だ*1
 それから、236頁12〜13行め「冒頭の「骨壺の風景」は、一九八二/(昭和五十七)年『新潮』創刊九〇〇号記念号に発表された」というのは11月2日付(1)に示した単行本の「発表誌一覧」にない情報だから良いが、もう1篇の「筆写」の初出を示していないのは困る。(以下続稿)

*1:この「あてはま」り方については、235頁3〜12行めに「鳥羽僧正覚猷」(ルビ「かくゆう」)について、235頁13行め〜236頁8行めに「北斎」について、詳しく解説している。