瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

北杜夫『楡家の人びと』(06)

 北杜夫(1927.5.1〜2011.10.24)は『楡家の人びと』執筆の準備について、たびたび述べている。私は北氏の著作を殆ど読んでいないので、まだ他にもあるかも知れないが、最晩年のエッセイ集から拾って見ることにする。
北杜夫マンボウ 最後の大バクチ』新潮社
・単行本(二〇〇九年三月二五日発行・定価1300円・221頁・四六判上製本

マンボウ最後の大バクチ

マンボウ最後の大バクチ

新潮文庫9269(平成二十三年九月一日発行・定価400円・246頁)
マンボウ 最後の大バクチ (新潮文庫)

マンボウ 最後の大バクチ (新潮文庫)

 単行本11〜60頁・文庫版15〜68頁「1章 沈み行く日々」として纏められている13篇のうち7番め、単行本34〜37頁(9行め)・文庫版40〜43頁(12行め)「「楡家」の裏側*1」で、同文であるが単行本ではルビが36頁1行め「駘蕩」に「たいとう」、13行め「米国」に「よねくに」の2箇所だけだが、文庫版では他に15箇所、合計17箇所に増えている。
 まずは「新聞」に関する箇所を見て置くこととしよう。単行本35頁4〜8行め・文庫版41頁6〜11行め、前者の改行箇所を「/」後者のそれを「|」で示した。

 物語を私の生れるかなり前の大正七年から始める予定だったので、当時の世相を知|ろう/と新聞を調べることにした。その頃の新聞は国会図書館にもなく、新潮社の小島|喜久江さ/んに頼んで、東大の史料編纂所に通った。朝日新聞と都新聞を調べた。都新|聞の薬の広告/などが面白く、私は作中でノイローゼの薬好きの書生を作って彼にそれ|らを買わせたりし/た。また天然色写真の記事などは、これまた創造人物のビリケンさ|んに朗読させたりした。*2


 文庫版は例によって、246頁の次に「この作品は平成二十一年三月新潮社より刊行された。」とあるのみで初出を示さないが、単行本は221頁の裏、奥付の前に横組みの「*初出一覧」があり、10行めに「「楡家」の裏側」 「新潮」2004年6月号」とある。
 小島喜久江(1928.9.19生)は文藝誌「新潮」の編集者で、後の文藝評論家・詩人小島千加子。「楡家の人びと」第一部は「新潮」昭和37年1月号から12月号に、第二部は「残された人々」と題して昭和38年9月号から昭和39年3月号に連載、第三部は書下ろしで昭和39年4月に単行本刊行。(以下続稿)

*1:7月28日追記】文庫版にのみルビ「にれ」。

*2:文庫版ルビ「きくえ」。