瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

山本禾太郎「第四の椅子」(21)

讀賣新聞社「本社五十五周年記念懸賞大衆文藝」(21)
 それでは二等当選の作品について見て置きましょう。
・關田一喜「河豚クラブ」
 白井喬二の選評(80点・1位)

 ―關田一喜氏の「河豚クラブ」は令孃の家出事件/を中心とした、私立探偵家の活躍/であるが、文章が健全で諄々と推/理を進めて行くところが、〓物め/かないでよろしい。森川といふ盗/賊女學生と其學校の校長との問答/はすてきに面白い。一種の時代批/評がチヨイ/\鋭鋒を現はすので/此作を手際よく引き締めてゐる。/但し時代を昭和十五年としたのは/作者は少し臆病過ぎたやうである


 昭和4年(1929)2月19日付「讀賣新聞」より「作 關田一喜/ 畫 井上猛夫」として朝刊「文藝」面に連載され、6月14日付の[115]で完結しています。梗概のみ提出していた続きを実際に執筆してみると、規定の100回分には達しなかったということになります。それはともかく、確かに冒頭「昭和十五年」と書き出しているので、――自分が今、何年のことを調べているのか、足許がぐらつくような按配でクラクラしました。……過労かも知れませんが。
 吉川英治の選評(80点・2位)

 探偵小説の方で同じやうに達者/の實力がゆつたりと窺へるのは/「河豚クラブ」であらう。平明な文/體で一つの變態性反逆兒團體の惡/戯をすら/\と書いてゐる刺戟的/な興味としては〓薄に思はれるが/それだけ落着いた筆致で作家の思/想や社會觀を託してゐるところも/ある。‥‥


 「同じやうに」というのは直前に論評されている「影繪双紙」を指しています。続いて山本氏の「第四の椅子」が評されて、最後に探偵小説2作纏めての論評があるのですが、それは次回に回しましょう。
 甲賀三郎の選評(75点・2位)

 「河豚クラブ」
     關田一喜君
 刺戟を求める變態性の人間の犯/罪をテーマとしたもので、筋も相/當面白い。作者はこの作品を一篇/の物語りに止めず、讀者に何事か/感じさせようとして、或程度まで/は成功してゐるが、その爲に甚だ/煩はしい所がある。


 この教訓臭は後述する、関田氏の当選してのコメント*1からも察せられます。
 寺尾幸夫の選評(80点・2位)

二、「河豚クラブ關田一喜作。變/態的なものを扱つたもので狹い範/圍になり易い探偵小説を〓者と同/じやうに時代に關心をもつて可な/り廣い社會相を背後に浮かべてゐ/るのが新しい。樂な筆である。奇/想を凝らしてゐてそれでゐて實社/會から遠くないのがいゝ。


 三上於菟吉の選評(64点・4位)

フグクラブ」 ひどく面白い空想/ あれど、稍投げやりに過ぐ、


 三上氏の評価が若干低いですが、概して高い評価を得ています。
 読みたいと思いませんか? しかし、単行本にはならなかったようです。今はヨミダス歴史館を検索すれば端末で読めますから国会図書館等で読めますが、これこそ『論創ミステリ叢書』に収録すべきではないでしょうか? 関田氏は長命でしたので「東太郎の日記」のように勝手に全文を載せる訳には行きません。「東太郎の日記」推薦が空振りに終わった失態の挽回ではありませんが、読みもしないのに推薦する次第です。問題は1冊の本になるかどうかですけれども、11月19日付(03)で見たように「分量=一回分四百字詰の原稿紙三枚半」でしたから、単純に計算して115回は原稿用紙402.5枚、161000字分になります(もちろん全てのマスをみっちり埋める訳はないのですが)。何とか1冊分にならないでしょうか。他にも作品があって抱き合わせることが出来れば良いのですが、関田氏については後述の予定ですが、業余に主にネットで調査しているような按配では、これ以外に関田氏の小説や身辺雑記風の随筆が伝えられているのかどうか、分かりません。遺族にも当たって本格的に調査する必要があります。とにかく当時の名だたる選者たちが推しているのですから、Amazonレビューにしばしば「まさかこの作者の探偵小説を本にするとは」とコメントされる『論創ミステリ叢書』が逸して良いとは思われないのです*2。(以下続稿)

*1:12月17日追記12月16日付(24)に紹介しました。

*2:そうすれば手軽に読めるという気持ちなのですが、挿絵や表記の醸し出す雰囲気が失われてしまうことが惜しくもあるのですけれども。――もちろん他の企画でも良いのです。