瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

田辺貞之助『江東昔ばなし』(5)

 並製本の内容は上製本に同じである。上製本が刊行されたのが田辺氏の最晩年、昭和59年(1984)9月7日に死去する2ヶ月余り前の6月15日であってみれば、その後、著者の遺志に基づく追加は考えられないのだけれども、刊行者など関係者による再刊の経緯を説明する文章なども追加されておらず、奥付には「二〇一六年四月五日 第一刷」とあるのみで初刊(上製本)の発行日を示さないから、初刊がいつなのか、並製本からは俄に見当が付けられない。並製本の奥付上部の「著者紹介」に「1905−1984」とあるから、昭和59年(1984)以前に纏められたのだろうとの見当は付けられるが、やはり本の来歴は、はっきり分かるように示して置くべきだと思う。
 尤も上製本にしても、最後の、日付はないものの本書刊行に際して書き下ろしたものと思われる「改装の嘆き――あとがきにかえて」を読むに、上製本188頁6行め・並製本211頁6行め「古稀の年をすぎてから、体力の衰えが気になり」、上製本190頁10〜11行め・並製本214頁2〜3行め「もう二、三年、長くても五年もすれば、私も自分の建てた墓に葬|られ/る身となるのだが」との考えから、上製本188頁2〜3行め・並製本211頁2〜3行め「敗|戦の/前年に疎開」するまでを過ごし、上製本188頁2行め・並製本211頁2行め「先祖代々の墓」のある「東京の江東区」についての回想を纏めたのだろう、と云う見当が付けられるのだが、編纂意図について説明した文章がないので、収録されている個々の文章の素性は、本書からは分からない。
 しかし、私が本書を通読したのは平成6年(1994)2月16日から21日で*1、その後、本書を手にする機会も殆どないまま過ごして来たので、文章の素性まで特に考えたこともなく、何となく書き下ろしみたいな風に思い込んでいたのだが、11月6日付「人力車の後押しをする幽霊(5)」に引いた「深川育ちの深川ばなし」を読んだとき、これは本書の原型ではないか、と思って、それこそ20年振り(?)に本書を借りて来て、そしてネット検索もして見ると、更に遡って、Vergil2010のブログ「読む・考える・書く」の2015-03-28「関東大震災と「新巻の鮭」」に抄録されている、昭和37年(1962)刊の田辺氏の著書『女木川界隈』の「新巻の鮭」が、本書の「江東と異変」の章の「2 関東大震災」の原型らしいことが分かったのである。差当り、この節の3項め「新巻の匂い」を引用している林俊嶺のブログ「真実を知りたい-NO2」の2011年11月03日「関東大震災 朝鮮人虐殺死体目撃の記述 田辺貞之助*2」と比較されたい。
 これは「新巻の匂い」に限らない。――『女木川界隈』はネット上に僅かながら取り上げられていて、生駒散人のブログ「古本ときどき音楽」の2010-01-30「■[最近読んだ本]:田辺貞之助『女木川界隈』」がやや詳しいが、さらに2010-02-07「■[最近買った古本]:島田謹二『マノン物語』ほか」に、

 『江東昔ばなし』は『女木川界隈』とほとんど重複した感じなのにはいささかがっかりしましたが、少しは続編のようなものも混じっているようなので良しとしましょう。

と『江東昔ばなし』との関係が指摘されていたのである。(以下続稿)

*1:それ以前から拾い読みはしていたと思うが、この大学3年の春休みに、初めて頭から順に読了したのである。

*2:若干入力ミスがある。