瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

恠異百物語(5)

 昨日の続きで、4話め(100話めという設定)を抜いて置く。

 
 さて、よたびわたくしの番でございます、、ズぅズ/ズーーゥ、、失礼を致しました、夜も更けて参りまし/て、今晩は殊のほか涼しゅうございます、わたくしも/つい先日患ったところでございますがみなさまも夏風/邪には十分お気遣いなされますよう、
 最後となりました、これはわたくしの姉の話でござ/います、
 わたくしが高校のときでございます、だいぶ前の話/になります、姉は保険の代理業務をしておりました、/オートバイに乗って颯爽と出掛けて行きます、わたく【18下】しは遅刻しそうになると駅までオートバイを勝手に借/りて行きました、よく喧嘩をしたものでございます、/新しいもの、珍しいものが大好きな、快活な、誰にも/好かれる人でございました、
 夏の夕涼みに、姉は女学校時代からの親友の家に行/って怪しい話をしておりますうち、親友が申しますに/は、上の峠に幽霊が出ると云う噂がある、確かめに行/かないか、と云うのでございます、姉は先にも申しま/した通りの人で、連れを得まして一も二もなく承諾致/しました、
 さて、姉は仕事に出ると見せて親友と待ち合わせま/した、そうして麓まで行ったのでございますが親友が/尻込みを致します、本当に出ると思わねばこそ行って/噂の根拠のなさを笑おうと思うのでございます、少し/でも思えば足がすくむものでございます、姉は間違っ/ても一度すると決めたことを変えない人でございまし/た、これから仕事に出ようにも書類は家に置いて来て/おります、第一、そのようなことを信じる人ではあり/ません、姉は親友と別れて砂利道にオートバイを走ら/せました、この峠道と云うのは、傾斜が緩うございま/して、わたくしが小学五年までは立派に使われており/ました、ところがトンネルを掘る段になりますと、傾【19上】斜が緩くて坂が長いこの峠道は敬遠されまして、隣の/谷の険しいことで知られた峠の方に新道が敷かれるこ/ととなったのでございます、
 わたくしの家からは十キロは離れておりましたし、/別の道筋でありましたからわたくしは実地に確かめた/訳ではございませんけれども、新道が通りますとみな/新道の方に流れてしまいまして、もとの峠道は山仕事/の者しか入りません、そうすると、幅は車が通るくら/いはあったそうでございますが山路と云うものはぢき/に荒れてしまいます、樹木が繁茂して暗くなりますし/雨水で掘られたり草が生えたり致します、その上に幽/霊の話が出まして、わたくしは後で知ったのですが麓/の集落ではかなり前から云われておったそうです、麓/の集落で姉を見かけた人があったそうでございますが/まさか若い女がそんなことをするとは思いません、姉/は咎められずに山路にかかりました、
 姉はオートバイで行けるところまで行って後は歩こ/うと思っていたと申します、けれども、荒れてはいま/したが傾斜が緩いので乗ったまま峠に到りました、
 峠には崩れかけた茶屋がありまして、茅葺きの屋根/に草が生えておりました、日は陰っておりまして、晴/れている日の木陰の暗さよりは総体にぼやけた暗さに【19下】包まれておりました、
 姉はところどころでオートバイを下りて手押しで上/がって参りましたので、峠に着くと立ち止まって呼吸/を整えました、麓から高度差が三百メートルくらいし/かないのですが、距離がかなりございまして、峠では/正午を過ぎておりました、そこへ人が現れました、白/い服を着ておりまして、姉は木の枝に袖を引っかけた/り蜘蛛の巣にかかったりして登って参りましたのに、/少しも汚れておりません、けれどもその女は大して変/わった気配もなく、普通に話しかけて参ります、姉は/外交に長けた人でございます、相手に合わせて世間話/を致しました、それでもちら/\、仕事で鍛えました/技能というもので、気にされぬよう様子を見ておりま/すと、靴が少しも汚れておりません、目を見て話そう/としますと逸らします、これで日が差しておりました/ら影が写らなかったのではないかしらと笑っておりま/した、、エ、、エ、クシュン、、失礼を致しました、/だいぶ寒うございますな、姉が申しますには、やはり/様子がおかしいので、迷信を信じない人で意識の上で/はそんなはずはないと思いましても、背筋が震えて参/りました、そこでお暇を乞いましてオートバイに跨が/りますと、その女も麓に連れて行って下さい、と申し【20上】ます、姉はここで後ろを取られたらオシマイだと感じ/ました、何も言わずエンジンをふかして発進させます/と、女は荷台を左手でつかみまして、それが、やはり/ずしりと重かったと申します、姉は緩い坂を女を引き/ずりながら下りました、砂利が撥ねる音がして、女の/地面にぶつかって呻く声がして、後ろを振り返らずに/少し急な傾斜に差しかかってオートバイが上下に激し/く揺れたときに、ふと軽くなりましたので振り向きま/すと、女は地面に伏して顔だけ上げて、一言、
――オボエトウ。
 そう申したそうでございます、姉を睨んでおったそ/うでございますが睨めくらをする余裕はありません、/荒れた峠道を単車に乗ってよく無事に下りて来られた/ものと思いますが、姉は麓に着くまで何も覚えていな/いと申しておりました、
 わたくしが姉から峠のことを聞きましたのはこの三/日後の昼でございました、姉は珍しく頬を紅潮させま/して、いつもは興奮など致しません人で、自分の言う/ことに自信を持っていますのに、信じろとばかりに申/します、わたくしは姉の申しますことに反証も何も持/ち合わせませんので黙って聞きましたが、姉はわたく/しの目を見て悲しそうに息をつきました、これが怖い【20下】ことであるのなら青ざめて良さそうなものを、姉はそ/の日から赤みを増しこそすれ、少しも血の気の引いた/風には感じられなかったのでございますから、
 姉が亡くなりましたのは、その四日後でございまし/た、川の土手道から、草の繁る川原に転落したのでご/ざいました、姉はオートバイとは別に投げ出されまし/て、夏草の中に手足をくねりながら倒れておったそう/でございます、手足は折れておりましたが、キレイな/顔をして、草いきれの中に、血の一滴も垂らさずに倒/れておったそうでございます、
 先日、地図で見ますと峠道は記載されておりません/でした、もう消え失せたと思われます、姉が倒れてお/りました川は改修工事が行われまして、もう昔日の景/を止めておりません、オートバイは打ち所が良かった/ものか、姉の初七日から卒業までわたくしが通学に使/いました、


 続いて1行空けなしで直ちにオチになるのだけれども、あまりにもしょうもないので別に上げることにする。
 この話も2月17日付(2)と同じときに聞いたはずで、私は当然のように兵庫県内のどこかにある峠にあった実話のつもりで聞いていたのだったが2月16日付(1)に断ったように*1、中学時代に思い出して書き留めたノートに載ってない。
 ――ある夏の夜、久し振りに会った若い女友達の間で、幽霊が出ると云われている近くの峠の話が出、後日行って見ようと云うことになる。しかし、その話を持ち出した本人は直前に尻込みしていまい、巻き込まれた恰好のもう1人が、1人だけで出掛ける。峠で怪しげな女に会う。話しているうちに怖くなる。麓に連れて行って欲しいと言われるが断ってオートバイを発進させると荷台をつかまれる。しばらく引き摺った後に振り払うことが出来たので振り返って見ると、腹這いになったその女に睨まれ「覚えとう」と言われる。山は無事に下りられたが、しばらくしてオートバイの事故で死ぬ。
 こういう話で、何故幽霊が出るのか、女は何者だったのか、その説明はなかった。これ以上詳しくは書けない。ここに箇条書きにした要素の、間が埋まらないのである。書くとするとそれは今の私の想像力で補ったことになる。だから人に読ませるつもりで書くとすると小説にでも仕立てるしか活かしようがない訳で、しかしこれは流石にやり過ぎたと思っている。(以下続稿)

*1:2020年9月19日追記】このことは「2月17日付(2)」に断ってあったので削除。