瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

夏目漱石『こゝろ』の文庫本(19)

集英社文庫『こころ』(5)
 『吉野朔実劇場』角川文庫版の確認(角川文庫版は「吉野朔実劇場」を謳っていないのだが)で長くなったが、7月4日付「『吉野朔実劇場』(1)」に予告した集英社文庫『こころ』に関する記述について見て置こう。
 角川文庫12353『お父さんは時代小説が大好き』3章め「ふんわり毛布にくるまって」の1節め、84〜88頁「Book.........14 漱石先生に再会する」は、84頁に書影を上下2段に3つずつ合計6点掲出する。上段右は『坊っちゃん』中は『三四郎』左は『こころ』、下段右は『吾輩は猫である 上』中は『吾輩は猫である 下』左は『夢十夜草枕』、下段中の下にゴシック体横組みでごく小さく「夏目漱石 著/集英社文庫/ヤングスタンダード」とあり、さらに下に明朝体横組みで「――手前味噌で恐縮です。――*1」とある。
 「手前味噌」と云うのは、この6点は全て吉野氏のイラストだからである。
 85〜88頁の漫画を見るに、85頁にイラストを引き受けた経緯が説明されている。
 台詞の吹出し移りは「/」で、コマ移りは「」で示した。

ナレーション:"漱石の文庫本の表紙をやらないか"という依頼を頂いたのは一九九〇年十二月、新連載を控えて只ならぬ状況に追い込まれた年の暮れのことでした
吉野:「もう予告カット待ったなし タイトル決めなきゃ カラーも描かなきゃ 年末だし/なのになんっにも出来てないときちゃ/これはもう正月返上だなー…」
ダイヤル式電話*2:「とるるるーとるるるー*3
吉野:「はい…えっ漱石!?*4 も… もちろんやりたいですよ!! あっでも〆切は…」
ナレーション:こんな時に限って―――――― よくある事です。
吉野:「一月中旬!! しかも三枚いっぺんに!? そんなひどい せめてあとひと月 でも…そりゃ…そこをなんとか ダメ?でもいや あのその… やりたいけど時間がないんですよ〜」
吉野:「…」
受話器:「…」
吉野:「なんか言って下さい」
受話器:「…待ってるんです」(汗2滴飛ぶ)
吉野:「うっ」(吹出しの中に汗3滴流れる)
吉野:わかりました。やりましょう。
受話器:「えらい」パチパチパチ
おかげさまで年末ふっとぶ 年末 ぶんっ
年始もふっとぶ 年始 ぶんっ*5
ナレーション:夏目漱石の表紙が二度と巡って来るとは思えません。これを断わったら私はなんのためにこの仕事をしてるのかわからない…


 84頁の書影は6点であるがここで「一月中旬」に「三枚いっぺんに」と言っているのは、84頁上段の『坊っちゃん』は未見だが2014年3月18日付「夏目漱石『三四郎』の文庫本(3)」に触れた『三四郎』、1月12日付(06)に触れた『こころ』が、ともに「1991年2月25日 第1刷」であるところから察せられるように、この3冊が同時刊行であったのである。何故吉野氏に依頼したのか、連載前だから「吉野朔実劇場」は無関係で、吉野氏の漫画を他に読んでいない私には見当が付かない。
 『夢十夜草枕』は平成4年(1992)に、『吾輩は猫である 上』『吾輩は猫である 下』は『お父さんは時代小説が大好き』の単行本が刊行される前年に刊行されている。集英社文庫の、先行する文庫に収録されていた作品は当時図書館には購入されなかったらしく『夢十夜草枕』も『坊っちゃん』同様見ていない。今、私の手許には次の1冊がある。
集英社文庫吾輩は猫である 下』1995年6月25日第1刷・定価330円・323頁
 カバー表紙折返しの下部に明朝体横組みで「装画・吉野朔実/AD・菊地信義」とある。(以下続稿)
9月18日追記
集英社文庫吾輩は猫である 上』1995年6月25日第1刷・定価343円・329頁
 カバー表紙折返しの下部に明朝体横組みで「装画・吉野朔実/AD・菊地信義口絵レイアウト・野崎麻理」とある。カバー裏表紙のバーコード下の定価表示は「 定価360円 /[本体343円]」で同じ図書館の『下』第1刷の「定価[本体333円+税]」よりも早い時期のものである。詳細は以上3冊を並べて見る機会があればメモすることとしたい。

*1:ルビ「みそ」

*2:黒ではない。

*3:呼び出し音は手書きの太字。

*4:大きな明朝体

*5:このコマ(としたが枠がない)は「 」で括った吹出し以外は手書き。