瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

水島新司『ドカベン』(19)

・消えたヒロイン
 昨日の続きだが、今回は映画に全く言及しないので見出しを変えた*1

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 原作に朝日奈アッコが姿を見せなくなった頃、入れ替わるように登場するのが小林稔子(としこ)である。
 山田は鷹丘中に転校する前*2「SEINAN」という中学で小林と対戦し、ホームベース上での交錯プレイで、走者として投手の小林の両眼を負傷させてしまったことがあり、それで野球を辞め、鷹丘中の理事長の厚意で転校して再スタートを切り、柔道では講道館の首脳を唸らせるほどの実力を発揮し、転校当初からの腐れ縁とも称すべき岩鬼や、柔道部主将の木下、特に、団体戦決勝で死闘を演じた武蔵中夜間部柔道部主将・賀間剛介と親交を結んでいた。
 しかるに、岩鬼が野球部に移ったところに、失明に近い状態にあった小林が、成功率2割の視力回復手術を受ける前に山田のユニホーム姿を見て置きたいと鷹丘中にやって来て、柔道着を着ていることに文句を言う(文庫版④311〜326頁)。このときに同行していたのが妹の稔子である。
 そして、翌日の手術中、手術室の前で4時間ミットを構えて一緒に戦うことで念を送り手術を成功に導く(文庫版⑤2〜25頁)*3。そして稔子の希望で、小林の目の包帯を外す日にも立ち会い、ちょっと儚げな美少女の稔子に手を取られて「ほんとうにありがとう」と礼を言われて赤面している(文庫版⑤35〜44頁)。そしてその晩、野球に復帰することを決意し、岩鬼に野球部入部を願い出るのである(文庫版⑤45〜49頁)。
 この稔子は、地区大会の開会式直後の第一試合で鷹丘中と兄の率いる東郷学園が対戦することになって、社長である父と(父の部下2人とともに)応援に駆けつける(文庫版⑤285〜286頁)が、前回触れたように岩鬼率いる(?)野球部は全く期待されておらず、鷹丘中の応援席にはサチ子と空いているので来たようなオジサンたちしかいない(文庫版⑤288頁)のを見て、鷹丘中側のスタンドに移るのである(文庫版⑥47〜48頁)。そしてサチ子のように声を挙げて応援したりはせず、黙って祈っているばかりなのであるが、兄のことだけでなく163頁1コマめ(山田くん)174頁5コマめ(太郎さん)と祈っており、山田のことが好きらしいのである。山田も病院で礼を言われたときに赤面しているようにまんざらでもなさそうだが、結局進展せずに終わっているようだ。
 と云って、私は『ドカベン』の本編しか読んでおらず、Wikipediaの「ドカベンシリーズの世界における年表」項を見て、

1970年代[編集]
・1974年
 ・7月11日、土井垣将誕生。
・1976年
 ・5月5日、山田太郎誕生。
・1977年
 ・2月17日、里中智誕生。
 ・4月1日、岩鬼正美誕生。

とあるのに仰天しているくらいだから、その後の展開には全く付いて行けていない。それにしても、連載開始時よりも後に生まれていることになっている*4ことを知って、もう後の展開を知るのは――続編を読むのは、敢えてやめようと思っているのだけれども。
 小林は中学卒業後、アメリカに留学することになり、山田家を稔子とともに挨拶に訪れ、じっちゃんに畳の注文もするのだ*5が、山田兄妹は不在で逢えずにしまった。その小林兄妹が夜道を帰る描写(文庫版⑦76頁2コマめ)に、

稔子:「おにいさん 太郎くんが高校へ行けて良かったわね」
真司:「稔子 おれの分まで山田を応援してやってくれ」

との会話が書き込まれているのだが、その後稔子がその方面で目立つことはなかったらしいのである。
 それはともかく、山田の鷹丘中時代の前半のヒロインが朝日奈アッコだとすると、後半は小林稔子である。ソフトボール部の中心メンバーらしく健康的で長身の朝日奈に対し、小林稔子は痩せて何処か儚げで弱々しい感じだ*6が、容姿は似ている。朝日奈とは恋愛感情のような描写はないが、小林稔子とは具体的な進展はないがそれを窺わせるような描写はある。
 前回述べたように、鷹丘中と東郷学園の試合にこれまでの流れからすると朝日奈アッコがスタンドに応援に来ていてもおかしくないと思うのだけれども、そうすると小林稔子とキャラが被ってしまうし、特別な想いがあるかのような印象を与えてしまうかも知れない。この特別な想いと云う部分も、山田と相思相愛らしく描かれている小林稔子がいるのだから、そのように受け取られそうなキャラクターを2人出す必要はない*7。すなわち、ライバルの小林真司とその妹・小林稔子を登場させた時点で、漫画の人物相関図的視点からは朝日奈アッコは退場すべき人物に、作者の頭の中では自然に振り分けられていたのである。……まぁそのまま、端役扱いにしても出すのを忘れてしまったのだろうけれども。(以下続稿)

*1:【10月13日追記】タグの[映画]も削除した。

*2:11月15日追記】以下全て「鷹岡」となっていたのを「鷹丘」に訂正した。

*3:と云う説明で良いのかどうか、私はどうもこういう精神論的な振舞が苦手なのだけれども、因果関係を認めるとすればこういうことになろうと思うのである。

*4:私よりも年下だよ。――『ガラスの仮面』じゃないけれども、長期連載になるとこういう無理が出てしまう。

*5:この畳代が入ったことで、家業を継ぐつもりだった山田は高校進学出来ることになる。

*6:しかし前記、山田家からの帰途の着飾った服装は、兄と1歳違いとして中学2年生なのだが、ちょっとそうとは思えない。この漫画、男子生徒は特にそうだが、どうも中学生らしくないのである。――それにしても稔子って、山田のことを知ったとき、……小学生?

*7:三角関係にする程ではない。それだと別の漫画になってしまう。