瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

水島新司『ドカベン』(56)

殿馬のピアノ(3)
 昨日の続き。今日はピアノに触れないが昨日の続きなので見出しは変えないで置く。
 さて、東郷学園中学との試合後にピアノを弾きながら殿馬が口にした「借りができたづら」については、続けて本人が説明しているけれども、試合の場面に遡って確認して見よう。
 この試合、2番セカンド殿馬は1回裏は3球三振(文庫版⑤324頁3コマめ)であったが、3回表に投手(!)の岩鬼三者三振(文庫版⑥75頁)に仕留めたのを見て、3回裏1死で回って来たときには、77頁2コマめ、バッターボックスに向かう途中で後ろから岩鬼に「こ こらあトンマ おんどれブチ当たってでも塁に出て わ わいまでまわせ」と声を掛けられて、3〜5コマめ、

殿馬:ピタッと足を止めて「ブチ当たるなどケチなこと言うな/ヒットで出る」
岩鬼;「えっ」
殿馬:真剣な顔「おれもおまえの三者三振で少しはベースボールらしきものをやってみたくなったぜ」
歓声:ワー ワー【77】

と言って「秘打白鳥の湖」を披露するのである(78〜88頁)。
 5回裏は197頁3コマめ、景浦秋男監督が「さあ殿馬くんきみからだよ」と送り出されて、再度「秘打白鳥の湖」に挑むが外されて3球めで見逃し三振であった(198〜204頁)。
 そして7回裏1死から回ってきて「秘打花のワルツ」で出塁する(217〜225頁)。続く3番長島がセカンドフライで2死、4番岩鬼がセカンドオーバーのポテン安打で2死1・2塁、そこで11月21日付(54)に見たように5番山田が敬遠で満塁、しかし続く6番猛司は1回裏(18頁1コマめ)5回裏(215頁1コマめ)は空振り三振で最後のバッターとなっており、描かれていない4回裏無死での打席も同様であったろう。案の定打席に入る前から舞い上がっており(255頁)、2塁走者の岩鬼「あ あかん あいつは無理や」(256頁2コマめ)3塁走者の殿馬「ヤジにのまれとる 負けたづらぜ」と敗戦を覚悟するのだが、1塁走者の山田(256頁1コマめ)だけが落ち着いている。しかし1球めは全く当たる気配のない空振り(257頁)で、いよいよ殿馬が敗戦を覚悟したとき、山田からのアイコンタクトで劇的な展開へと進むのである。258頁*1

殿馬:3塁で仰け反って「あ〜〜やっぱりだめだろ」
殿馬:「ん?」気付く
山田:殿馬をじっと見詰める
山田:殿馬をじっと見詰める(顔アップ)
殿馬:(むっ なんじゃい山田 この大事な時におれとにらめっこかよ)
山田:殿馬をじっと見詰める(目の辺りだけアップ)
殿馬:(何かやる気づらな山田……)
ラジオ実況:「小林くん第二球」
山田:ツツ と離塁
殿馬:(これだ!!)【258】


 山田の離塁に気付いた捕手が1塁に送球したとき(猛司は空振り)、殿馬は本塁に突入し始めており、直ちに本塁に返球されてタイミングは完全にアウトであったが、殿馬は逆スライディングでタッチを躱すもののホームベースを飛び越してしまい、結局捕手とタッチの競争になって、本当にタッチの差でアウトになってしまう(259〜264頁)。
 すなわち、殿馬は自分にこのプレイが出来ると見込んでくれた山田に「借りができた」ので、恐らくこのときに山田の進学先に自分も進学して、高校でもともに野球をやろうと云う気持ちになったのだと解釈した方が自然だと思うのである。――道で見掛けて追い掛けて転校したと云うよりかは。

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 なお、殿馬はかなりのレベルのピアノの腕前*2で、成績も優秀で、中学から私立に進むなどかなり裕福で教育に力を入れている家庭に育ったと思われるのだが(まぁそんなこと言ったら、10歳のときに両親を亡くして畳屋の祖父に育てられた山田が中学・高校と公立ではなく私立*3に進んでいるのも)他の主要登場人物と違い家族は登場せず家庭環境は謎である*4。(以下続稿)

*1:全体に「ワー」と云う歓声が7箇所に入るが織り込まなかった。

*2:文庫版(21)に描かれる高校2年生の時点では世界レベルと云う評価になっている。

*3:鷹丘中の前に在学していた「SEINAN」中学が公立だった可能性があるが。

*4:或いは続編で説明されているのかも知れないが、土佐丸高校戦での回想がそうであるように、後付の説明はなるべく採りたくないのである。