瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

水島新司『ドカベン』(55)

殿馬のピアノ(2)
 昨日まで、11月14日付(48)に見た高2の選抜決勝、土佐丸高校戦での里中の回想が、初登場時に山田の家で語っていた内容と齟齬していることを確認した。そして同様のことは11月15日付(49)に見た、同じ選抜決勝戦に差し挟まれる殿馬の回想についても指摘出来そうなのである。
 この回想では、殿馬はなんと、山田の姿を見掛けて、跡を追うように私立鷹丘中学に転校したことになっている。しかしこれは、里中の回想同様、初めから余りにも山田の存在の大きさが強調されているように思う。もちろん里中の場合、野球部員で投手だった訳だから「高校野球で挽回」するために能力の高い捕手を見付けてバッテリーを組みたいと思うのは、おかしくない。しかし、殿馬が「でっけぇづら」と云う印象を受けただけで、山田が何をやっているのかどうかも分からないのに、すなわち共同(チーム)作業が可能かどうかも分からず、共同作業が不可能としても近くで見守ることが出来るかどうかも分からないまま、とにかく同じ学校に転校しようと思ったと云うのは、飛躍し過ぎている。
 この点を中学時代をリアルタイム(?)で描いていた時期の巻々にて確認するに、やはりこの回想には無理があると云わざるを得ないようである。
 殿馬が初登場するのは10月20日付(30)で見たように、サチ子に野球部に勧誘された第1号の部員としてであった。しかしながら、73頁7〜8コマめ、

殿馬:「おいよォてめえ 野球はどこでやるづら」
サチ子:「野球は野球場づらよ」
殿馬:「へえ〜っ おれよォはじめて聞いたづらぜ」
サチ子:「ひとつかしこくなったろうぜ」
山田:顔が青褪め(もしくは紅潮し)目が×点になり口を開け頭上にもじゃもじゃが飛ぶ【73】

と云った按配で、確かに何故勧誘に応じようと思ったのか謎である。――土佐丸戦の回想をここに被せるなら、山田に接する機会を狙っていたところに舞い込んできた好機と云うことにはなる訳である。
 しかしながら、その後も殿馬が特に山田に注目しているような描写はない。例のポーカーフェイスで誤魔化していたと云うことになるのだろうか。
 けれども、殿馬がピアノを原作上で初披露する場面(文庫版⑥275〜278頁)で山田と交わす会話を元に、試合の場面を眺める限りでは、とてもそんな秘められた思い(?)があったとは、思われないのである。
 まづ、試合後、初の登校で、山田は朝から音楽室で殿馬がピアノを弾いているのを見る。275頁4コマめ〜278頁(6コマめ)、

音楽室:♬ポロロォ〜ン♬ポロン♬
山田:「?」【275】
殿馬:ピアノ演奏 ボロロ ボロポロ♬♪♬ピピン ピン♪♪♬ポンピン ピポポン♪
山田:「へえ〜〜」
殿馬:「山田おっよォ おれよ てめえに借りができたづらな」ボロン ポロ ポロ
山田:「えっ」【276】
殿馬:「てめえだけづらぜ おれの野球センスをわかっていたのはよォ」ボロロン ポロポロ ピンピロン「そのなによりの証拠がよ あの飛び出しプレーづらぜ」♪♬♬ボロロン ポロポロ♬「猛司にゃよォ どう ひいきめにみたってよ 万が一にも小林のタマはよ 打てねえ」ピンピピ ピポオ〜〜ンバポォ〜〜ン「それで てめえはおれの走塁のセンスを信じて わざと飛び出したわけづらよ」ピンピン【277】
山田:「でも本当に惜しかった/あの逆スライディングは見事だった」
殿馬:ピンピン♪ポロポロ♬ポロロンロン♪「おっよォ これで中学での野球はぜーんぶよォ終わったづらぜ」ボロン
山田:「うんじゃあ」
殿馬:「ああ」♪♬♪ピンピン♬ポロン♪♪ポロポロ ピポン【278】


 合間に鏤められている音符は適当に配置したが、上下逆転していたり、276頁2コマめには16分音符と3連符(8分+16分+16分)が1つずつ見えるが、表示出来ないので多用されている8分音符(♪)と連桁付き16分音符(♬)にて代用した。
 長くなったので試合での経緯については次回に回すこととする。(以下続稿)