・I giochi del diavolo “la Venere d'Ille”(7)
昨日の続き。
会話を切り上げて去って行くクララを見送る主人公。そこに酔っぱらって上機嫌のアルフォンスが来て主人公の肩を叩き、指輪を忘れたこと等について話す。
夜、雨に打たれる女神像の指に、指輪のダイヤモンドが光っている。―― Ille の Peyrehorade 邸に花嫁を伴って戻った一同は晩餐の最中である。クララの隣に Peyrehorade 氏。アルフォンス君の姿はない。
末席の少年が隣の若い男に耳打ちされて席を立ち、テーブルの下を這って新婦の脚からリボンを取る。吃驚するクララ。少年は手にしたリボンを振り回す。花嫁と主人公を除いて皆笑顔で拍手。少年はリボンを耳打ちした男に渡すと、若者たちが集まって来る。リボンを受け取った男はナイフでリボンを切り分ける。
これは日本の結婚式でも普通に行われるようになった、ブーケを投げる行為に類するもののようである。
原作では、この晩餐会の直前にアルフォンス君は一時、姿が見えなくなり、青ざめた真面目な表情をして現れてコリウール酒を呷る。主人公が飲み過ぎを注意するとアルフォンス君に後で話したい、と言われるので、この場にアルフォンス君は同席しているのだが、TVドラマではこの主役のはずのアルフォンス君不在のまま、宴席が始まっていたことになる。
それはともかく、この辺りの各氏の訳を比較して見よう。杉氏(岩波文庫)156頁5〜9行め、傍点が打ってある平仮名を仮に太字にして示した。
そうしているうちに、わーっという叫び声と拍手につつまれながら、十一ばかりの子供が、/食卓の下にもぐり込んでいたのであるが、今しがた新婦の足首からといて来たとき色のリボン/を一同の面前にかざして見せた。このことを新婦の足リボン*1と言っているのであるが、たちま/ちこれはいくつにも細かく切られて若い連中にくばられた。若者たちはそれをボタン穴に飾っ/た。これはある種の旧家に今でも残っている、昔からの習慣に従ったものである。‥‥
西本氏(未來社)118頁3〜7行め、
この間*2に、十一歳の男の子で、いつの間にかテーブルの下に潜り込んでいたのが、花嫁から盗*3/ってきたばかりの、踝に結んであった白のピンクのリボンを一同の前で振り廻して見せ、歓呼の/声と盛大な拍手が湧き上がった。このリボンは「靴下留*4」とよばれ、アッという間にいくつにも/切り分けられて、列席の若い男どもに配られた。受け取ると、若者たちは上着のボタン穴に通し/て飾るのだが、これはいまだに一部の旧家の間に残っている当地の習慣*5に従ったもの、‥‥
平岡氏(岩波少年文庫)232頁1〜5行め、二重山括弧は半角。
そうこうするあいだに、十一歳の少年がテーブルの下にもぐりこんで、花嫁のくるぶし/から白とピンクのきれいなリボンをほどき、拍手の歓声のなかで客たちに見せた。《花嫁/の靴下どめ》と呼ばれているリボンだ。リボンはすぐに小さく切って、若者たちに配られ/る。それをボタンホールに飾るのが、まだ田舎の大家族などに残っている古くからの習わ/しだった。‥‥*6
まさに短篇「エトルリアの壺」で強調されていた couleur locale(地方色)への着目と云う訳である。
TVドラマの少年であるが、初日の晩に女神像に石を投げ付けた少年と同一人物*7で、4月6日付(07)の最初に挙げた、演出家父子の孫かつ息子であろう。
そんな中、Peyrehorade 氏は立ち上がって静粛を求めると、眼鏡を外して杯を空け、即興の詩を詠む。席を立って背を向ける主人公。Peyrehorade 氏は大笑いして、上機嫌。
TVドラマでは、アルフォンス君はここで初めて宴席に姿を見せる。Peyrehorade 氏は上機嫌のまま暗い顔をして入って来た息子に話し掛けるが、アルフォンス君は無視して立っている主人公に声を掛け、室外に連れ出すのである。(以下続稿)